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🔵映画「クリクリのいた夏」感想*古き良きフランスを描いた人情映画*(1999フランス)レビュー4.5点

クリクリのいた夏 [DVD]

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【古き良き時代のフランス】

この作品は、カレ(沼地)の畔に住むリトン一家の長女、クリクリの幼い頃の幸せな記憶を彼女の回想形式で綴った、懐かしくも心温まるヒューマンドラマです。

これは傑作、と胸を張ってオススメできる映画かも。牧歌的で、詩情豊かで、どこか懐かしくて……この作品が醸し出すノスタルジックな雰囲気は『ニュー・シネマ・パラダイス』と相通じるものがあると思います。 

この作品、公開当時(1999年)、フランスで大ヒットしたとか。観ていると、その理由も何となく分かる気がします。カレとその畔の四季の風景は、平穏で美しく、どのシーンも印象派の絵を眺めてるかのようです。昭和30年代の故郷の風景が私(そして概ね60歳以上の日本人)にとっての原風景であるように、1930年代のカレの風景は、たぶん多くのフランス人にとって心の拠り所とも言える原風景なのでしょう。世紀末に自らのアイデンティティを顧みた上で新しい時代に臨みたい……そんなフランス人の心情にジャストフィットしたのがこの作品だったのでは、と推察します。

【あらすじ】

この物語は、戦争で心に深い傷を負った復員兵、ガリスがたまたまカレに流れ着き、ひょんなことからカレの畔の小さな小屋で暮らし始めるところから始まります。

やがて、ガリスは、隣家のリトン一家と家族同然の付き合いとなり、リトンとともに、沼で釣った魚やカエル、森で獲ったカタツムリ、森のスズランで作ったブーケなどを町で売って生活費を稼ぎながら(時には町の家の玄関先で歌を合唱して小遣いを稼いだりもします。昔のフランスの風情が偲ばれて、ほのぼのします)、貧しくも自由気儘な暮らしを楽しむようになります。

そんな平和で長閑な彼らの暮らしも(誰の日常もそうであるように)様々な出来事が起こります。……ガリスと町のメイドとの恋、ガリスと町の富豪、ぺぺとの親交、リトンと人気のプロボクサー、ジョーとの諍い、クリクリとぺぺの孫、ピエロとの初恋etc。

そんな様々な出来事に一区切りついた頃、ガリスはある決心をします……。

【感想・レビュー】

ガリスとその周囲の人々との結びつきが柔らかく温かで、心癒される一作です。特に、実直で誠実なガリスと大酒呑みでいい加減なリトンの腐れ縁のような友情や、ガリスを父親以上に慕うクリクリの仕草が何とも微笑ましくて、ほっこりします。また、この作品でキーマンとなっているぺぺの存在もとても印象的です。ぺぺは、屑鉄拾いから身を起こし町の富豪へと上り詰めますが、裕福な今の暮らしを窮屈に感じ、亡き妻と暮らしたカレを度々訪れて、幸せだった昔を懐かしみます。一方、彼の娘は貧しかった時代を恥じて、父親がカレに出向くことを嫌悪します。かつてカレで、“カエル釣り名人”と呼ばれたぺぺが、沼でカエル釣りに興じる姿を見ると、「人にとって、本当の幸せ、本当の豊かさって何だろう」としみじみ考えさせられます。苦労してようやく豊かな生活を手に入れたはずなのに……人生ってままならないものですね。

この作品、配役も絶妙で、主役も脇役もそれぞれが個性的な魅力を放ちながら、しかも全体とうまく調和しています。ジャック・ガンブラン(ガリス役)、ジャック・ヴィユレ(リトン役)、ミシェル・セロー(ぺぺ役)ら俳優陣の演技は、まさに、あっぱれ!の一言です。また、個人的には、『奇跡のひと マリーとマルグリット』のイザベル・カレ(ガリスの恋人役)の若かりし頃の姿を見ることができたのも思わぬ収穫でした。そして、この作品には、かつてマンUのエースストライカーだったエリック・カントナもプロボクサーのジョー役で出演しています(ハマりすぎてて笑えます)。彼も『エリックを探して』以来の再会で、ちょっと嬉しくなりました。

この作品は、現代人の荒んだ心を優しく撫でてくれるような、癒やしに満ちた一作です。特に、エンディングの老いたクリクリのモノローグは“トドメの一撃”的感動で、もう切ないやら可笑しいやらで泣き笑い状態に陥ってしまいます。こんな良心的な作品がもっとポピュラーになってくれれば、人は人に対してもっと優しくなれるだろうに、とも思います。

今やフランスも、移民問題やテロ不安等を抱え、かつての面影や情緒は失われつつあるようですが、この作品は、フランスがフランスであった時代の、フランス愛に溢れた、本当に素敵な映画だと思います。