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🔴本「ピエールとリュース」感想*クラシックの名曲のような格調と気品が漂う名作*ロマン・ロラン(鉄筆文庫)レビュー4.4点

ピエールとリュース (鉄筆文庫)

ピエールとリュース (鉄筆文庫)

【クラシックの名曲のような格調と気品】

この作品、40数年ぶりの再読です。確か『ジャン・クリストフ』に感動してその勢いで手にした本だったと記憶しています。小品ながら人間の愚かしさと美しさを見事に描き切った恋愛&反戦小説の傑作で、自分にとっては、『はつ恋/ツルゲーネフ』や『みずうみ/シュトルム』、『林檎の樹/ゴールズワージー』などと並んで、若き日の記憶を呼び起こしてくれる思い出深い作品の一つです。

【あらすじ・感想・レビュー】

この作品は、1918年、戦時下のパリを舞台に、徴兵を控えた青年ピエールと美しい少女リュースの初恋とその結末を描いたラブストーリーです。空襲下の街で、死の予感に怯えながらも、純粋で清らかな愛を育んでいく若い恋人たちの姿は、今更ながら感動的です。

再読してみて、やはりロマン・ロランは文豪と呼ぶに相応しい大作家だと再認識しました。彼の文学は、繊細かつ詩的でありながら、抒情に流されない芯の強さがあって、力感に溢れています。また、言葉に音が宿っている、とでも言うのでしょうか、言葉の端々から音楽の響きが感じられるのも特徴的だと思います。例えば、ピエールが恋に落ちる場面では、彼の歓喜のほとばしりが音符に変換され、文字の背後で踊っているような気がしますし、リュースが二人の将来を憂う場面では、重低音の音が断続的に流れているような気がするのです。『ジャン・クリストフ』がフルオーケストラの交響曲なら、こちらはさしずめヴァイオリン協奏曲といったイメージでしょうか。

更に感嘆するのは、若い恋人たちの歓喜、高揚、不安、憂愁等の感情表現の素晴らしさです。ロマン・ロランの言葉の豊かさ、表現力の凄さはさすがノーベル賞作家だなあとつくづく感心します。以下、その例を2つほど紹介したいと思います。

 

ピエールは恐る恐るリューズに尋ねる……

『「いつ、ぼくは君のものになる?」ピエールは言った。(彼は、「いつ、君はぼくのものになる?」とは、ききかねた)』

……みずみずしいですよね!18歳の少年の恥じらいや慎ましさ、相手を想う心情がこの短いフレーズにグッと凝縮されている気がします。ちなみに、このフレーズは、夢見る頃を過ぎた今でもサラリと口にできるほど、私の脳裏に焼き付いています。

 

また、ピエールが初めてリュースの家を訪れた日の一節……

『最初、ふたりは何を話していいかわからない。前もってこの邂逅のことをあまり考えすぎたからだ。用意していた文句は、ひとつも口から出てこない。そして彼らは、家には誰もいないのに、低い声で話す。……彼らの話題は、寒い天気や電車の時間のこと。自分は何て間抜けなんだと感じて、ふたりは悲しそう』

……これもまた、初々しくぎこちない初恋の日の記憶を鮮やかに喚起させる本当に見事な一節だと思います。 

 

ピエールとリュースの無垢の魂に触れて、精神が浄化されるような一作です。戦争のむごたらしさや愚かしさを再認識する上でも貴重な一冊かと思います。