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🔵映画「テンダー・マーシー」感想*ハリウッドの良心を感じるヒューマンドラマ*(1993アメリカ)レビュー4.1点

テンダー・マーシー [DVD]

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【ハリウッドの良心を感じる映画】

地味で平凡なストーリーだが、観終わった後、じわりと心地よい余韻が広がるヒューマンドラマ。

ロバート・デュバルの渋さとテス・ハーパーの慎ましさが光る。

ときどきこういう映画を作るから、ハリウッドは侮れない(……と言っても20数年前の作品だが)。

【あらすじ】

かつて人気のカントリーシンガーだったスレッジは、酒に溺れて離婚して以来すっかり落ちぶれて、今やモーテルの宿泊代すら支払えない始末。スレッジは、モーテルの経営者のロザリーに下働きを申し出て、仕事中は酒を飲まないという条件で雇われる。

若く美しいロザリーは、ベトナム戦争で夫を亡くし、息子のソニーと2人暮らし。スレッジは、ロザリーとソニーの優しさに救われて、心穏やかな日々を過ごす。

そして、2ヶ月後、スレッジはロザリーに求婚する。3人での新たな暮らしは、平穏で幸福に満ちたものだったが、スレッジの心には、カントリーソングへの欲求と前妻の元に残してきた娘スーアンへの未練が燻ぶっていた。

そんな折、スレッジの新曲をレコード化したいというオファーがくる。成長したスーアンとの再会も果たして、ようやく彼の人生に希望の光が見えてきたのだが……。

【感想・レビュー】

人生に挫折し、悲哀と孤独に沈む中年男の再起を描いた味わい深いヒューマンドラマ。

地味で平凡なストーリーにもかかわらず、ここまで陰影に富んだ、奥の深い作品に仕上がったのは、“男の哀愁”を体現するロバート・デュバル(スレッジ役)の演技に負うところが大きい。彼の物静かな佇まいは、本当に渋い。『ゴッドファーザー』『ウォルター少年と、夏の休日』などを観て、以前から、芸達者な俳優だとは思っていたが、本作では、見事な歌声まで披露しているから驚きだ(5曲中2曲は彼の作曲というから、更にびっくり)。この作品で彼がアカデミー主演男優賞を受賞したのも、十分頷ける。また、テス・ハーパー(ロザリー役)の抑制の効いた控えめな演技も見事(個人的には、ツンと上を向いた鼻が好き!)。ロバート・デュバルとの相性もピッタリだ。

スレッジもロザリーも、過去の悲しみの記憶にじっと耐えながら、平凡な幸せを求めてひたむきに生きている。ベタだけど、そこがいい。人が何かにじっと耐えている姿は、美しくもあり、気高くもあって、理屈抜きに心打たれるものがある。

そして、何より秀逸なのがラストのスレッジとソニーのキャッチボールのシーン。フットボールのやりとりを介して、スレッジとソニーは本当の父子になる。その光景を見つめるロザリーの微笑は、千の言葉より多くのことを語っているように見える。溜息が洩れるような素敵なラストだと思う。

……しかし、一つどうしても腑に落ちないシーンがある。

スレッジは、久々に再会した娘スーアンから、『小さい頃、白い鳩の歌を聴いた記憶があるけど、ママは知らないって言うの。覚えてない?』と聞かれ、『さあ、知らないな』と答える。娘はちょっとがっかりする。そして、スレッジは、娘が帰った後、一人咽び泣きながらその歌を口ずさむ。

……なぜスレッジは知らないふりをしたのだろう(普通、このシチュエーションなら、喜んで歌ってあげるだろうに……)。いろいろ推測はできるのだが、どれも自信がない。

やっぱり良い映画は、奥が深い?(単に理解力がないだけか……)。