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🔴本「夢巻」感想*かなりぶっ飛んだショート・ショート*田丸雅智(双葉文庫)レビュー3.6点

夢巻 (新世代ショートショート)

夢巻 (新世代ショートショート)

【かなりぶっ飛んだショート・ショート】

奇想天外、奇々怪々、奇妙奇天烈のショート・ショート全20篇。

……しかし、作家稼業も大変だ。毎日こんなヘンテコリンなことばかり考えて、頭がヘンにならないのだろうかと、つい余計な心配をしてしまう。

【感想・レビュー】

夫を呑み込む引力を持ったブラックホールのような妻(『妻の力』)、刀と同じ切れ味を持つ大根で果し合いをする男たち(『大根侍』)、エレベーターの押し釦がルーレットになってしまい、いつまでも目的階に着けない乗客(『試練』)、日曜日と月曜日の間にある星曜日に移住した男(『星を探して』)……等々、幻想、シュール、ナンセンスの三本柱で非日常的世界を描いた怒涛のショート・ショート集。

あまりにぶっ飛びすぎて、正直、どう評価していいのかよく分からない小説。好みから言えば、ストライクゾーンからは少し外れる。

あえて分からないなりに言えば、この種の、いわゆる「世にも不思議な」系の物語の成否のポイント(生命線と言ってもいい)は、“絶対ありえないことなのにありえるかもと思わせるリアリティ”にあると思う。

突飛な話にリアリティを加えることで“奇妙な違和感”が生まれ、それによって“不思議の追体験”ができる、というのがこの種の小説のセオリーだろうと思うのだが、少なくとも、本作中のシュール&ナンセンスをベースにした作品については、残念ながら、そのリアリティが欠けている。そのためせっかくの奇抜なアイデアが生かされず、ただの空想(ホラ)話で終わっている気がしてならない。

ただ、「お前のような凡人に作者の非凡なセンスが分かるわけがない!」とツッコまれると、「それはそうかも」とあっさり白旗を上げてしまいそうな気もする……。

その一方、幻想をベースにした『蜻蛉玉』『岬守り』などの作品は、とてもよく出来ている。少なくともこれらの作品は、読者を日常から非日常へと誘(いざな)い、一瞬の夢を見させてくれる名作だと思う。

この作家、シュール&ナンセンスのショート・ショートに限りない愛着を持っているようだが、そのポテンシャルを見る限り、むしろ幻想小説の方が向いているのでは、という気がする。この作家の手による中編程度の幻想小説を、是非一度読んでみたいものだと思う。