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🔴本「今夜は眠れない」感想*安心して読めるミステリー*宮部みゆき(角川文庫)レビュー3.7点

.今夜は眠れない (角川文庫)

今夜は眠れない (角川文庫) 

【安心して読めるミステリー】

中学生の主人公の軽妙な語り口が楽しい、ライトなミステリー。出来は平凡だと思うが(失礼!)、作者の余裕とサービス精神を感じる一冊。

【あらすじ】 

平凡な家庭に暮らす中学1年生の緒方雅男。ある日突然“放浪の相場師”と呼ばれた人物から母親に5億円の遺贈があったことから、家庭環境が一変する。周囲の人たちの態度が変わり、無言電話や脅迫電話に悩まされ、おまけに父親は家出をし……。

相場師はなぜ母親に大金を遺したのか? バラバラになった家族の絆を取り戻すため、雅男は、親友の島崎とともに、真相究明に乗り出す……。

【感想・レビュー】  

物語の骨格がしっかりしていて、テンポがよく、おまけに人も死なないので、安心して読めるミステリー。語り手雅男の、いかにも中学生の男の子らしい、ちょっと背伸びした軽妙な語り口が見事(文章のリズムがいい)。文中のジョークも余裕しゃくしゃくで、さすが大御所の感がある。

しかし、不満がないわけではない。まず、登場人物に魅力がないところ。雅男の母親は理解に苦しむ言動が目立つし、父親は小心で身勝手だし、雅男本人は妙に物分りがいいし……あまり共感できないキャラばかり(特に父親にはイラッとくる)。かろうじて雅男の親友の島崎が異彩を放っているくらいか。これでは物語が大団円を迎えても、「ああ、スッキリ!」という気分にはなかなかなれない。この人物造形のミス?がせっかくのストーリーの面白さを減殺しているような気がする。

また、終盤にタネ明かしが立て込みすぎて、バタバタと帳尻合わせをした感が否めない。動機も少し弱い。

息抜きとして読む分には面白いミステリーだが、ややインパクトに欠け、大御所の作品としては足りなさを感じる一作。