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🔴本「春、戻る」感想*“文は人なり”……作者の優しい人柄が偲ばれる*瀬尾まいこ(集英社文庫)レビュー3.8点

春、戻る (集英社文庫)

春、戻る (集英社文庫)

【相変わらず、ほっこり】

瀬尾まいこの作品は、いつもギスギスした気分を和らげてくれる。

けっこうシビアな状況も描いているのだが、どこかおっとりとした雰囲気があって、トゲトゲしさを感じない。

“文は人なり”……作者の優しい人柄が偲ばれる。 

【あらすじ】

結婚を控え、花嫁修業中の望月さくらの前に突然現れた、兄を名乗る一回り年下の青年。そんな兄妹がいたなんて、とさくらは戸惑うが、思い当たるフシは全くない。しかし“おにいさん”はさくらの困惑などどこ吹く風。度々さくらのアパートや婚家に顔を出し、すっかり周囲と打ち解けてしまう。

さくらは、おにいさんの面影に微かな記憶があるのだが、思い出そうとするたびに、封印した過去の記憶に遮られ、どうしても思い出せない。

そんなさくらにおにいさんは自分の過去を語り出し、さくらの記憶を呼び覚まそうとするのだが……。

【感想・レビュー】

辛いことも悲しいこともふんわりとオブラートで包んだような柔らかさを感じる、瀬尾ワールド全開のほっこり系コメディ小説。

おにいさんの存在を違和感なく受け入れるさくらの婚約者やさくらの妹にはかなり違和感があるが、おにいさんとさくらの関係がずっと謎のままなので、「引っ張られるなあ」と思いつつも、ついつい最後まで付き合ってしまう。この辺りのストーリー展開が、いつもながら上手いものだと思う。

作品の出来としては、可もなく不可もなしの平均レベルだろうか(でもまあ、この平凡さがこの作家の特長と言えるのかもしれない。なにしろ、安心感がある)。直ぐに忘れてしまいそうな話ではあるが、とにかく優しく温かい物語なので、ひとときの癒しを求めたい人や誰かに励ましてほしい人にはオススメかも。

瀬尾まいこの作品は、“心のサプリメント”。人を思い遣る気持ちや一歩踏み出す勇気の大切さをシンプルな言葉で優しく伝えてくれる彼女の作品は、世の中がややこしくなればなるほど、その価値を増しているのかもしれない。