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🔴本「十八の夏」感想*けっこう好きなタイプの小説*光原百合(双葉文庫)レビュー4.1点

十八の夏 新装版 (双葉文庫)

十八の夏 新装版 (双葉文庫)

【けっこう好きなタイプの小説】

花(『朝顔』『金木犀』『ヘリオトロープ』『夾竹桃』)をモチーフにした4短編を収録した作品集。

書店のコーナーでは“10代にオススメ”と紹介されていたが、もう少し上の世代向きだろう。

装丁だけ見ると軽い青春モノのように見えるが、想像以上に読み応えがあって、十分大人の読書に耐え得るレベルの一冊だと思う。

【あらすじ・感想・レビュー】

《十八の夏》

浪人生の信也は、河川敷で絵を描いていたデザイナーの紅美子と知り合い、やがて同じアパートに住むようになる。信也は度々紅美子の部屋を訪れ、二人は次第に打ち解けていくが、ある日、紅美子の部屋を訪れた男の出現によって、その状況は一変する……。

 

不倫に悩む年上女性とその女性に恋心を抱く18歳の青年。構図はツルゲーネフの『はつ恋』とよく似ている。

成就することのない恋に身悶えする女性の想いがこのミリテリーの伏線となっているが、若々しい夏の季節感やモチーフの『鉢植の朝顔』が効いていて、ドロドロ感はなく、むしろ、さっぱりとした清涼感のある仕上がりとなっている。

第55回日本推理作家協会賞(短編部門)受賞作。

 《ささやかな奇跡》

妻に先立たれ、妻の実家近くで子育てをする書店員水島は、ふらっと立ち寄った町の小さな本屋で、気になるポップを目に止める。書いたのは一人で店を切り盛りする佐倉明日香。そこから二人の慎ましい交際が始まるが、明日香の過去を知る義母は、交際に強く反対する……。

 

本作品集中、一番好きな短編。心に傷を負った者同士が、遠慮深く、慎ましく、それぞれを思いやりながら静かに愛を育んていく姿にとても好感が持てる(若い人には少々焦れったく感じられるかもしれないが)。

“日常はささやかな奇跡に満ちている”……そう信じさせてくれる好短編。モチーフの『金木犀の香り』も印象的。

 《兄貴の純情》

思い込んだら一直線、猪突猛進、直情怪行の兄が恋をした。相手は近所に住む学校の先生の娘?。兄は彼女との結婚を夢見て、大好きな演劇から足を洗い、公務員試験を目指すのだが……。

 

本作品集中、一番トーンが明るく、安心して読める作品だが、設定やストーリーが余りにも平凡。兄貴の純情に共感する以前に、その粗忽ぶりに呆れ果ててしまう(憎めないキャラかもしれないが、ここまで能天気だと逆にイラつく)。モチーフの『ヘリオトロープ』もそれほど効果的とは思えない。

あと一捻りも二捻りもほしいところ。

 《イノセント・デイズ》

学習塾の講師の浩介は、ある日、かつての生徒である相田史香と再会する。史香は浩介に、同じ時期に生徒であった浜岡崇が事故死したと告げる。史香の姿にただならぬ気配を感じた浩介は、必死に彼女の過去を探り出そうとする。やがて、浩介は、相次いで不審死を遂げた史香と崇の両親の死因に疑問を抱くようになる……。

 

かなり重く深刻なミステリーではあるが、史香の救済と再生の物語でもあるので、読後感はそれほど悪くない。よく出来たほろ苦いミステリーと言っていいと思う。

特にモチーフの『夾竹桃』が、浩介が史香を懸命に諭すラストの場面で効果的に使われている点が印象に残る。