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🔴本「とりかえばや物語」感想*軽妙洒脱な王朝ロマン*田辺聖子(文春文庫)レビュー4.1点

とりかえばや物語 (文春文庫 た 3-51) 

とりかえばや物語 (文春文庫 た 3-51)

【軽妙洒脱な王朝ロマン】

平安時代後期に成立したとされる原典を、田辺聖子が現代語訳した作品。

“自分の人生は自分で決める”と決意した女主人公の力強い生き方を描く。

『とりかえばや』とは『とりかえたいなあ』という意味。

【あらすじ】

権大納言家の凛々しく愛嬌のある若君春風と美しく朧長けた姫君秋月。実はこの異母兄妹、若君が女の子で、姫君が男の子。幼い頃から、春風は男として生き、秋月は女として生きている。

年を重ねるごとに美しく育っていく二人を見て、父親の権大納言はいつも、『とりかえばや』と嘆く。

やがて、春風は華々しく宮中デビューを飾り、秋風はいよいよ館の奥深く潜んでしまう。

春風は帝や宮中の覚えもめでたく、その後順調に出世していくが、ある日、春風のライバルでプレイボーイの夏雲に自身の秘密を知られてしまう……。

【感想・レビュー】 

田辺聖子の訳する古典モノは、本当に面白い。古(いにしえ)の人々の姿が軽妙な文体で活き活きと再現され、とても古典とは思えないほどビビッド。まるで1000年前の人間が言葉によって命を吹き込まれ現代に甦ったかのような印象を受ける。

“名訳を通じて古の人々の豊かな心に触れる”、というのが古典を読む愉しみと言えるが、この作品はそれを堪能できる一作だと思う。

この作品、平安朝シンデレラストーリーの『おちくぼ物語』と比べると、少々エロチックで退廃的ではあるが、トランスジェンダーに起因する悲喜劇をテーマにしている点、男性社会で生き抜く女性を主人公にしている点、女性を凛々しく潔く、男性を愚しく女々しく描いている点などに、現代と相通じるものがあって、ある意味新鮮で、大変興味深い。

自らの才知で運命を切り拓いていく春風、男として世に出た途端、プレイボーイに変身する秋月、春風にいつまでも未練タラタラの夏雲、夏雲に結婚生活のスキをつかれた冬日……それぞれ個性的なキャラクターで、当時の人々の心の豊かさが偲ばれるが……それにしても、その内容は、女に同情的で男に手厳しい(夏雲などはミもフタもない描き方をされている。抗議したいところだが、身から出た錆なのがツラい)。この物語の作者は不詳とされているが、たぶん女性なのだろう。

1000年前のこの(一見艶っぽい色恋の)物語が脈々と受け継がれてきたという事実は、トランスジェンダー、女性の社会進出等の問題が人間にとっていかに本質的なものであるかの一つの証左と見ることもできる。そういう意味では、それらの問題が大きくクローズアップされている現代は、人類史の一つの転換点と言えるのかもしれない。