🔴本「機龍警察」感想*日本SF大賞&吉川英治文学新人賞受賞作*月村了衛(ハヤカワ文庫)レビュー3.8点
【至近未来の警察小説】
『土漠の花』の月村了衛による《機龍警察シリーズ》の第一弾。近接戦闘兵器・機甲兵装の新型機《機龍兵》に搭乗する3人の傭兵と彼らをサポートする警視庁特捜部員の活躍を描く。
日本SF大賞&吉川英治文学新人賞受賞作。
【あらすじ】
国際的テロや民族紛争の激化に伴い、警察庁は、警視庁に特捜部を設置し、最新兵器・機龍兵(人間が搭乗して操縦する巨大な二足歩行型ロボット)3体の導入を決定する。
特捜部長は元外務官僚の辣腕、沖津、そして機龍兵の搭乗者は、元傭兵の姿、元ロシア警察のユーリ、元IRFテロリストのライザ。
彼らは、警察組織内で孤立化しつつも、機甲兵装が立て籠もる現場へと出動するが、そこには見えない敵の恐るべき罠が待ち構えていた……。
【感想・レビュー】
ガンダム?風の機龍兵が何となく漫画っぽいが、骨太のストーリーと緻密なディテール描写で読ませる作品。各種兵器のシステムや装備、IRFのテロ活動や傭兵部隊の戦闘等の描写に迫真のリアリティがあって、確かに、至近未来ならあり得るかも、と思わせる現実味がある。
そして、3人の傭兵が醸し出す、ヒリヒリとした哀感とカラカラに渇いた空気感がなかなかハードボイルド。この3人のキャラクターが本作のキモだろう(沖津部長もかなり重要なキャラクターだが、本作では今ひとつその全貌が掴めない)。
元傭兵の姿は、いかにも元傭兵という感じで、定番と言えば定番か?(漫画『修羅の門』のヴァーリ・トゥードに登場した暗器使いの傭兵を思い出して、苦笑)。芝居がかった言動も少々鼻に付く。しかし、ライターで腕を炙る場面は、プロ根性剥き出しで、圧巻(今度は何となくゴルゴ13を思い出す……)。
元ロシア警察のユーリは、本作では、多少影が薄い。滑り出しは、冷酷非情なロシアン・マフィア風でいい感じなのだが、内心の葛藤が露わになる中盤以降は、メンタルの弱さが気になって、ちょっと頼りなくも感じてしまう(第二弾以降の巻き返しに期待したい)。
3人の中で最も異彩を放っているのは、元テロリストのライザだろう。わずか四小節しか弾けない『G線上のアリア』を奏でた後、敵を葬る彼女の戦闘の場面は、氷の美女、或いは美しき凶器といった趣きがあって、ひたすらクール。
本作では、ドラマの伏線として、警視庁の既存勢力と異端分子である特捜部との苛烈な駆引や暗闘の模様も詳しく描かれるが、警察小説ではよくあるパターンで、この点はやや陳腐な気がしないでもない。
アイデアが斬新(至近未来という時代設定、傭兵警官、機龍兵装等)で、エンタメ性も高く、面白い作品ではあるのだが、今ひとつインパクトに欠ける印象を拭えないのは、自分のセンスのせいだろうか……。