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🔴本「消えてなくなっても」感想*悲しみと慈しみのファンタジー*椰月美智子(角川文庫)レビュー3.9点

【悲しみと慈しみのファンタジー】

この世とあの世の結界のような山奥の治療院を舞台に、運命に翻弄される人間の魂の救済を描いたファンタジー。

儚く切ない物語ではあるが、素直に泣けないのは、年のせいだろうか……。

【あらすじ】

幼い頃に両親を亡くして心の病気を抱える、タウン誌の新人編集員のあおの。彼は、どんな病気も治してしまうと評判のキシダ鍼灸治療院に興味を抱き、ある日、山奥にあるその治療院を訪れる。

そこにいたのは、不思議な力を持つ節子先生と居候の若い女性つきの。あおのは節子先生の勧めで、しばらく治療院に滞在することになる。

あおのは、3人の共同生活の中で、山の自然に触れ、不思議な体験をし、大切なことに気付いていく。

やがて、あおのとつきのは、節子先生の導きによって、それぞれの運命を知ることになる……。 

【感想・レビュー】

序盤、節子先生のスピリチュアルな力に戸惑い、中盤、妖怪や物の怪の登場に面食らい、終盤、カラス天狗の出現で違和感はピークに達するが、そこからストーリーは急転直下、一気に驚愕のラストへと突き進み、終わってみれば、なるほどと納得。そして、その後には、何とも言えない、茫漠とした切なさが広がる物語だ。

これは魂の救済の物語。その意味では、この結末もハッピーエンドと言えるのかもしれないが、こんな形でしか救われないなんて『マッチ売りの少女』並みの哀れさだと思う。あおのとつきのは救われても、自分だけ悲しみの底に取り残されているような感覚がつきまとって、どうにもやるせない。

もっとも、この結末に癒やされたり、励まされたり、生きる希望をもらったりする人もいるだろうと思う。

それはそれでよし。この作品は、読者の死生観を問う物語でもあるのだから。死を身近に感じることが少なくなったこの時代に、こういう作品に接して、その意味に触れることも、よりよく生きるために有益ではあると思う(ある意味で、死を考えることは生を考えることに他ならない)。

また、この作品は、(節子先生の生き方を通して)素朴な信仰心の大切さを訴えているようにも見える。それは、別に妖怪や霊的なものを信じるということではなく、古から伝わる自然の摂理であるとか、自分が何ものかに生かされている自覚であるとか……そんなものを意味している。確かにそういう心持ちであれば、人はもう少し謙虚になれるだろうし、世界も今と随分違った姿形に見えるに違いない。

『泣ける小説№1』という帯の謳い文句には多少違和感があるが、作中に登場する河童のキヨシや童話『つきよのあおいさる』の鮮烈な印象を含め、心に沁みる作品ではある。