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🔵映画「ラサへの歩き方 祈りの2400Km」感想*チベット人の無垢の魂とシンプルな生き方に人生観を揺さぶられた一作*(2015中国)レビュー4.5点

ラサへの歩き方 祈りの2400km [DVD]

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【シンプル・イズ・ベスト】

やはり世界は広い。21世紀のこのハイテク時代にこんな過酷な旅が存在しているなんて、思ってもみなかった。

時代を超えて脈々と受け継がれる、“苦行”そのものの巡礼の旅。チベットの寒村の人々の無垢の魂とシンプルな生き方に触れて、これまでの自分の価値観が揺さぶられた一作。

【あらすじ】

中国四川省に隣接するチベット自治区のマルカム県プラ村。山間の寒村で暮らす村人たちは、農耕に従事し、皆で助け合って信心深く暮らしている。

彼らの念願は、聖地ラサと聖山カイラスへの巡礼の旅。五体投地(地面に体を投げ伏せて祈るという礼拝の方法)を繰り返しながら、まるでしゃくとり虫のような格好で行程2400kmを踏破するという気の遠くなるような旅だ。

その旅に、小さな女の子、おじいさん、妊婦らを含めた11人の村人が参加する。

彼らは様々なアクシデントに見舞われながらも、笑みを絶やさず、聖地を目指して悠然と一歩一歩前進していく……。

【感想・レビュー】

『星の旅人たち/2010アメリカ,スペイン』のサンティアゴ巡礼旅の行程は800km。それでも十分驚きだが、こちらはなんと2400km!なおかつ、歩行はしゃくとり虫(五体投地)!しかも、空気の薄い高地を往く旅だから、その過酷さはいかばかりかとただただ仰天し、恐れ入る。

彼らの旅は、ひたすら、祈り、歩き、眠るというルーティンの繰り返し。それがほぼ1年にも及ぶ。にもかかわらず、村人たちの表情はいつも明るく楽しげだ。落石で足を挫いても、道路が冠水していても、荷物を運ぶトラクターが壊れても、妊婦の出産があっても、彼らは決して慌てたり、急いだり、嘆いたりしない。全ては自然の成り行き、み仏の思し召しとでもいうのだろうか、その超然とした態度に畏敬の念を抱く。

彼らは、チベット仏教の教えに従い、他者のために祈りながら歩く。壮大な山肌を縫うように走る山道をぽつぽつと往く彼らの姿は、蟻のようにちっぽけで、ひどく無力な存在にも見える。そんな画を見ていると、人間が厳しい大自然の中で生き抜いていくためには、他者との助け合いがなによりも大切ということに気付かされる。この地に他者との共存を説く仏の教えが深く根付いているのも頷ける気がする。つまりは、山の民の謙虚さと他者への寛容さは、彼らが仏から授かった知恵であり、大自然から学びとった教訓でもあるのだろう。

これは観るべき映画。仏と自然を敬い、自己を戒め、家族を愛し、隣人と共に生きる、彼らのシンプルな生き方と豊かな精神性に触れて、新鮮な衝撃と感動を覚え、心がインスパイアされる傑作。

 

……余談ではあるが、劇中、小さな女の子がiPhoneを使うシーンがあって、これには驚いた。今や世界のどんな場所で暮らしても、時代の洗礼は不可避なのかもしれない。

かつて国民総幸福度が90%を越えていたブータンでは、テレビ、家電、携帯電話等が解禁となった今、その指数は40%程度とか。人間の欲望に際限がない以上、テクノロジーが発達すればするほど人は幸福から遠ざかる、ということなのだろうか。

便利な国で暮らす自分がこんなことを言うのはおこがましいのだが……ラマ村の人たちには、たとえ便利な暮らしになったとしても、豊かな精神性だけは失ってほしくない、と切に願う。