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🔴本「終電の神様」感想*世の中が荒んで他人が信じられない時代だからこそ、一読の価値のある一冊*阿川大樹(実業之日本社文庫)レビュー4.2点

終電の神様 (実業之日本社文庫)

終電の神様 (実業之日本社文庫)

【作品紹介〜電車にまつわる謎と奇跡の物語】

満員電車で痴漢に遭う女装の男(『化粧ポーチ』)。納期に追われる中、有給を命じられたIT企業戦士(『ブレークポイント』)。筋肉バカの競輪選手とのすれ違いの恋に悩むキャリアウーマン(『スポーツばか』)。理髪師としての人生を全うした父親の最期を看取る孝行息子(『閉じない鋏』)。コント作家の女装の男の過去に触れ、衝撃を受ける若い恋人たち(『高架下のタツ子』)。自分への誤解がもとで不登校になった少年を深く気遣うようになる、人間嫌いの女子高生(『赤い絵の具』)。駅で命を助けてくれた恩人を探し出すため、25年間キヨスクで働く中年女(『ホームドア』)。

……市井に生きる人々のささやかな人生に訪れた奇跡の瞬間を鮮やかに切り取った“電車”にまつわる連作短編集。

【感想・レビュー】  

第一話の『化粧ポーチ』は、響いてくるものがなくてやや期待外れ。相性が良くないかも、と若干不安になるものの、第二話、第三話と好みの作品が続いて、一安心。

第二話以降はどれも期待水準を上回る出来だが、一番の好みは、最終話の『ホームドア』。

ホームの線路に転落した女を間一髪のところで救い出し、正体を明かさないまま立ち去った青年と、命の恩人に一言お礼を言いたいという一念で、再会の可能性のあるキヨスクで25年間働き続けた女……果たして二人の再会は叶うのか?

ストーリーとしては平凡かもしれないが、この作品に陳腐さを感じないのは、命の恩人が『スカートを履いた青年』という“謎”の設定の面白さと、登場人物の心の動きがありありと伝わってくる心理描写の巧みさによるものだろう。

キヨスクの業務の流れや売り子の仕事振り(朝の常連客をアサノさん、昼の常連客をナカノさんと内輪で呼び合うところなどは、特にリアルで面白い)など、物語のディテールまで手を抜かない作風も好感が持てる。

『ホームドア』は、人の善意や真心が素直に胸に染みて温かい涙と希望が湧いてくる、そんな極上の一篇(似たようなテイストの『スポーツばか』もオススメ)。

世の中が荒んで他人が信じられない時代だからこそ、一読の価値のある一冊だと思う。