🔴本「スウィート・ヒアアフター」感想*作者の全肯定の態度が、読む者に静かな安らぎをもたらす良心的一作*よしもとばなな(幻冬舎文庫)レビュー4.0点
【作家の良心を感じる物語】
一人の若い女性の喪失と再生の物語。
作者の全肯定の態度が、読む者に静かな安らぎをもたらす良心的一作。
【あらすじ】
交通事故で瀕死の重症を負った小夜子は、何とか一命をとりとめるが、運転していた恋人を喪ってしまう。
小夜子は、自分が代わりに死ねばよかったという思いに苛まれ、魂が抜けたような日々を過ごす。
そんな小夜子を救ってくれたのは、ゲイの青年と居酒屋の店主との出会いだった。
自分の心の声に従い、二人に見守られながら、小夜子はゆっくりと生きる力を取り戻していく……。
【感想・レビュー】
この作家の特長は、ホンモノとニセモノを嗅ぎ分ける鋭い嗅覚と、詩人のような言語感覚にあると思う。一言で言えば、センスの良い作家。 心に渦巻く様々な想念の中から本質的なものだけを掬い取り、それを一つ一つ瑞々しい言葉に変換する能力はただただ“お見事”と言うしかない(彼女の作品を読む度に、その才能の豊かさに驚かされる)。
本作もそんな作者の特長がよく表れた一作。生死の境を彷徨う小夜子のとりとめのない想念とそれに伴うふわふわした浮遊感が独特の詩的表現で活写され、いかにも“ばななワールド”という印象を受ける。
また、本作のテーマである“魂の再生”についても、大切な日常を喪った小夜子が喪失感を乗り越えて“今のままでいい”、“今の自分でいい”と思えるようになるまでのプロセスが、まるで壊れ物を扱うように丁寧に描かれている。
作者の「あとがき」によると、本作は3.11の大震災の被災者を想って書かれたものだという。
散文詩のような詩的文体で綴られた小説であるため、きれいすぎるとか、とりとめがないとか、メッセージ性が希薄とかいった印象もないではないが、儚げな装いの中にも日常や生命の確かな力を感じさせる作品ではある。