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🔵映画「少女は自転車にのって」感想*サウジ初の女性監督の勇気とセンスは賞賛に値する*(2012サウジアラビア)レビュー4.1点

少女は自転車にのって [DVD]

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【しなやかでしたたかな女性監督の視点】

初体験のサウジ映画。イスラムの厳しい戒律に唖然、呆然(この封建度レベルは江戸時代以上⁉)。

それでも今をしなやかに、したたかに生きるサウジの女性たちの姿に感動。

様々な制約の中でこの映画を撮ったサウジ初の女性監督の勇気とセンスは賞賛に値すると思う。

 【あらすじ】

サウジの首都リヤドに住む10歳のお転婆娘ワジダの夢は、男友達のアブドゥラと自転車で競走すること。

お目当ての自転車を見付けたワジダは、アルバイト代を貯め、足りない分を母親におねだりするが、女子が自転車に乗ることを忌み嫌うイスラムの教えもあって、相手にしてもらえない。

そんなある日、ワジダは、学校でコーラン暗唱コンテストが開催されることを知る。その優勝賞金は自転車を買うのに十分な金額だった。

ワジダは、出場に名乗りを上げ、苦手のコーランを必死に勉強するのだが……。

 

【感想・レビュー】

ストーリーは『運動靴と赤い金魚/1997イラン』とよく似ているが、『運動靴……』が兄妹愛をメルヘンチックに謳い上げた作品であるのに対し、本作はイスラム社会に生きる女性たちの実像を描いた作品。

唖然とするのは、女性の生きづらさ。10歳位から黒い布とスカーフで全身を覆い隠すように強制され、歓声や歌声を男に聞かれるのもNG。生理中はコーランを素手で触ってはいけないし、車の運転は禁止、自転車に乗ることさえ忌み嫌われる。学校は男女別で、自由恋愛は否定され、しかも男は重婚OK。イスラムの教えに疎いわれわれの感覚からすると、ほとんど別世界、異次元の感がある。 

しかし、この映画は、そんなイスラム社会の現状を糾弾するというトーンではなく(糾弾調であれば公開もされないだろう)、イスラム社会の今を生きる女性たちの実像を描くことに重点を置いている。

ワジダの願いは自転車に乗ること。それは社会へのレジスタンスなどではなく、ただ“自転車が好き”という純粋な想いから。この作品が重たい現実を描きながらも爽やかな余韻を残すのは、少女のそんな真っ直ぐな心情を丹念に掬い取っているからだろう。そして、その結果として、やんわりとした社会風刺劇にも見えるように仕上げているところに、この女性監のしなやかでしたたかな(反骨)精神を見る思いがする。

夫の愛を繋ぎ留めたいばかりに赤いドレスを買う母親、イスラム教の権化のような頑迷な校長先生、ワジダを慕い、ついにはプロポーズする少年アブドゥラ……印象的な人物やシーンは少なくないが、母親の決意と愛情が滲むラストシーンは特に秀逸。風を切ってリヤドの街を疾走するワジダとアブドゥラの姿も、サウジの新しい時代を予感させて、爽やかで心地好い余韻を残す。