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🔴本「紙の動物園」感想*SF小説の新たな地平を切り拓く記念碑的作品*ケン・リュウ(ハヤカワ文庫)レビュー4.5点

紙の動物園 (ケン・リュウ短篇傑作集1)

紙の動物園 (ケン・リュウ短篇傑作集1)

【ホンモノの才能の煌き】

気鋭の中国系アメリカ人作家、ケン・リュウの短編七篇を収録した傑作短編集。

これはもう、SF小説の新たな地平を切り拓く記念碑的作品と言っても過言ではないだろう。

やはり世界は驚きに満ちている。

【あらすじ】 

表題作の『紙の動物園』。

ぼくの母親は中国人。貧しかった母は父に買われるようにアメリカに嫁いできた。

母は、泣き虫だったぼくのために、包装紙を使って、虎や水牛の折り紙を作ってくれた。母の作った動物たちは、命を吹き込まれたかのように活き活きと動き出して、ぼくを喜ばせた。ぼくにとって、紙の動物たちが唯一の友だちだった。

……やがて、ぼくは大きくなり、紙の動物たちと遊ばなくなった。そして、(中国人である)母を遠ざけるようになった。母の想いも知らないまま……。

【感想・レビュー】

世界は広い。フェルディナント・フォン・シーラッハの「犯罪」やこの短編集などを読むと、つくづくそう実感する。世界には自分の知らない才能がどれだけ潜んでいるのだろう。そう思うと、新たな才能の発見がお宝探しのようでもあり、益々読書欲を掻き立てられる。

実際、この作家は凄い。作中に中国系アメリカ人という出自に由来する複雑な胸中を滲ませつつも、内容は極めて普遍的で、決してマイノリティーの文学という訳ではない。

特に注目すべきは、西洋の合理性と東洋の神秘性、原始の呪術と未来のテクノロジーといった相対する概念が渾然一体となった独特の世界観。その世界観を支えているのは、精緻で論理的な文体と鋭敏な感受性から醸し出される抒情性であるように思われる(おそらく、彼の論理性は弁護士、プログラマーといった多彩な職歴に由来し、抒情性はマイノリティーとしての精神性に由来するものだろう)。この「論理」と「抒情」の高次元での両立が彼の文学の特長と言えるのではなかろうか。  

どの短編も瞠目に値するが、個人的には、表題作の『紙の動物園』(これは堪らなく切なくて、泣ける)以外では、原始と未来の男女の愛を描いて東洋と西洋の異文化交流の可能性を問う『心智五行』と、列国の覇権主義や全体主義に翻弄される台湾人の悲劇を捉えた『文字占い師』が強く印象に残る。

これら一連の作品群は、SF小説という括りを超えた、文学の精華と言ってよい作品だと思う。