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🔴本「13ヶ月と13週と13日と満月の夜」感想*少年少女の時代にこの本に出会えた人は幸せだと思う*アレックス・シアラー(求龍堂)レビュー4.3点

13ヵ月と13週と13日と満月の夜

13ヵ月と13週と13日と満月の夜

【ノンストップ・ファンタジー】

12歳の勇敢な女の子、カーリーの不思議な体験を描くダーク・ファンタジー。一見、中学生向けの童話のような物語だが、大人が読んでも十分愉しめる良作。

【あらすじ】

邪悪な魔女姉妹の計略によって、自分の体を老婆(魔女)の体とすり替えられた12歳の女の子カーリー。

彼女は、優しい父母から引き離され、老人ホームに送られてしまう。

13ヶ月と13週と13日が過ぎてしまえば体を取り返せなくなると知った彼女は、かつて同じように魔女に体を奪われたメレディスと力を合わせ、魔女姉妹と対決しようと決意するが……。

 【感想・レビュー】

ハラハラドキドキの展開でイッキ読みの小説。ディテールがしっかり描き込まれているのでファンタジーとは思えないリアリティがある。ストーリーも起伏に富んでいて抜群に面白く、何の力も持たない平凡な女の子が(知恵と勇気を武器にして)邪悪な魔女と対決する場面など、読む方もつい力が入ってしまう。

ストーリーの面白さに加えて、カーリーを通して語られる、作者の瑞々しい世界観が瞠目に値する。この作者、1949年生まれとはとても思えない。よほど純な心の持ち主なのだろう。

 

……例えば、 

『わたしが最初から(話を)始めないのは、どこが最初なのかわからないから。本当。とにかく、今まで一度も、ものごとの始まりなんか見たことがない。ものごとって、そんなふうには進まない。たいては半分過ぎてからか、終わり近くになってから気づいて、そこから始まりまでたどっていくものだ。ほとんどがそう』

 

『とっても年を取った人たちは、急ぐってことを忘れてしまって、ただのんびりやりたいんだと思う。人間って、残された時間が少なくなればなるほどのろのろして、たっぷり時間があるときのほうがさっさとやる。本当に変な話。』

なかなかの慧眼だと思う。

 

また、この作品に一貫して流れるメッセージも力強くポジティブで、励まされる。12歳の女の子の活き活きした日常と老婆の老いの悲しみのコントラストを通して、互いを思い遣る気持ちの大切さを説いた上、老いも若きも、それぞれの「今」を大切に生きることを訴えている(「老い」の描写がリアルで真に迫っているが、これは作者の心象風景の表れだろうか)。

 

 『メレディス、今あるものを当然だと思ってはいけない。すべてが永久にこのままだなどと考えてはいけない。決して変わらないものなどないのだから。……われわれにできるのは、最善を祈ること、そして今、目の前にあるものを楽しむことだけだ。今のために生きるのではなく、今を生きるんだよ。確実なのは今だけなのだから』

 

多感な少年少女の時代にこの本に出会えた人は幸せだと思う。もちろん大人にとっても、これは、忘れかけていた大切なものを思い出させてくれる貴重な本。優れた教養書に勝るとも劣らない感銘力のある一冊だと思う。