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🔴本「がん消滅の罠 完全寛解の謎」/岩木一麻(宝島社)感想*第15回『このミステリーがすごい!』大賞に相応しい秀作*レビュー4.1点

【2017年・第15回『このミステリーがすごい!大賞』大賞受賞作】 がん消滅の罠 完全寛解の謎 (『このミス』大賞シリーズ)

【2017年・第15回『このミステリーがすごい!大賞』大賞受賞作】 がん消滅の罠 完全寛解の謎 (『このミス』大賞シリーズ)

【前代未聞の活人事件】 

余命宣告を受けたがん患者のがんが、きれいに消えてしまう……。死ぬはずの患者が生き返るという前代未聞の活人事件の謎を追う医師、夏目と羽島の挑戦を描く医療系ミステリー。

【あらすじ】

日本がんセンターで、余命宣告を受けたはずのがん患者のがんが、生命保険の生前給付金を受け取った直後に、跡形もなく消えてなくなるという完全寛解の症例が相次ぐ。

偶然か、奇跡か、それとも保険金詐欺か……。医師、夏目と研究医、羽島は、保険会社に勤務する旧友、森川の協力を得て、真相究明に乗り出す。 

やがて、事件の背後に湾岸医療センターという謎の病院の存在が浮かび上がるが……。

【感想・レビュー】  

とにかく『治るはずのないがんが、なぜ消滅したのか』という謎の設定が卓抜で、その謎の持つ牽引力に引っ張られて、図らずも一気読みのミステリー。

本作も前回紹介した「ファースト・エンジン」と同じく、馴染みのない専門用語が多く、スラスラとはいかないが、医療の素人である夏目の妻を会話に加わらせて専門用語の説明をするという工夫を凝らしているので、難解ということはない。最後に明かされる驚愕の真相も、医学的知見を駆使したものとはいえ、素人にも十分理解できる内容で、“お見事”の一言。更に、オマケのラスト1行のサプライズ。なるほど、よく出来ている。

また、がん治療の現状や医療界を取り巻く様々な今日的課題の描写も(その課題を克服するための国家的陰謀の描写を含めて)、素人には大変興味深く、ためにもなる。

作者は、この作品を書いた動機として『がんという病気に広く関心を持ってほしかった』と述べている。そのメッセージは、少なくとも読者に関しては届いたはずだ。

あえて不満を挙げるとすれば、中盤に間延び感があって全体的にややスリル感が欠けるところと、(謎解きに主眼が置かれているためか)人物造形が平板で人間ドラマとしての魅力が乏しいところだろうか。もう少し登場人物(特に夏目と羽島)の内面に焦点を当てていれば、物語の陰影が増して、読後の余韻も更に深まったのではないかと思えるのだが……。

そうは言っても、この作品が、第15回『このミステリーがすごい!』大賞に相応しい秀作であることは間違いない。  

誰しも関心の高いがん医療の現状の問題点と、ミステリー(謎解き)の愉悦を高い次元で融合させた作者の力量は評価されて然るべきだと思う。