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🔵映画「マチネー 土曜の午後はキッスで始まる」*B級映画を装ったA級映画*(1993アメリカ)レビュー4.3点

マチネー/土曜の午後はキッスで始まる [Blu-ray]

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【B級映画を装ったA級映画】

キューバ危機、B級ホラー(モンスター)映画、オールディーズナンバー……世界中がカオスの中にありながら異様な熱気と活力に溢れていた60年代を忠実に再現した青春コメディ。タイトルもなかなかシャレている。 

マチネーとは、演劇、音楽会等の昼間興行の意。

【あらすじ】

映画は、ショッキングな水爆実験の映像から始まる。

背景は、1962年のキューバ危機に揺れるアメリカ最南端のフロリダ州キーウェスト。

転校ばかりで友だちのいない少年ジーンは、大人たちが核戦争の恐怖に怯える中、ひたすらホラー(モンスター)映画にのめり込む。ある日、原子蟻人間が人間を襲う映画『MANT!』の予告編を目にし、憧れのウールジー監督がそのキャンペーンのためキーウェストを訪れることを知る。

やがて、ジーンはウールジー監督と親しくなり、気になるクラスメート、サンドラとも知り合いになる。

いよいよ『MANT!』の封切りの日。ウールジー監督の(核戦争の勃発を思わせる)ド派手な仕掛けに館内は大混乱。ジーンはサンドラとともに、支配人が館内に作った核シェルターに閉じ込められてしまう……。

【感想・レビュー】

60年代への郷愁とB級ホラー(モンスター)映画愛が滲む青春コメディ。様々なテーマを盛り込みながらも、微笑ましくも愛らしい青春映画にスッキリとまとめ上げた監督の手腕が凄い。

核戦争の脅威に直面し、秘かに核シェルターを作る人や食料品の買い溜めに走る人。人々の恐怖心に便乗してホラー映画で一山当てようと目論む映画監督と上映は青少年に悪影響を与えると糾弾する団体。そんな大人たちを尻目にデートにいそしみ、映画館に通う子どもたち……。

彼らの日常は、核戦争の恐怖に怯えながらも、どことなく楽天的で陽気な雰囲気が漂って、エネルギッシュで無秩序だ。この混沌とした空気感が60年代そのものという気がする(70年代のような虚無感や退廃感が漂っていないのは、ベトナム戦争が本格化していないからだろうか)。監督のこだわりは当時の空気感の再現だけに留まらず、街並み、車、ファッション、音楽、部屋の小物類等の隅々にまで及び、60年代の風景も見事に再現されている。

また、劇中劇の『MANT!』の中にも、監督の無邪気で旺盛な遊び心(『アトモ・ビジョン』、『グラグラ・ラマ』などの仕掛け)が詰まっていて、単純に楽しめる。もっとも、注意深く観ると、登場する原子蟻人間は何かを象徴しているようにも見える。核爆弾か、ソ連か……。一見チープに映る劇中劇にも様々な解釈が成り立つところに、この監督のハンパない凝り様が窺える。

そしてトドメは、主人公の映画少年のB級ホラー(モンスター)映画への偏愛。これはアメリカ版のライトな『ニュー・シネマ・パラダイス』とも言えるかもしれない。

個人的には、ケネディのテレビ演説の映像やバックに流れる『ライオンは寝ている』、『ロコモーション』がひたすら懐かしい。