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🔴本「ファースト・エンジン」/未須本有生(集英社文庫)*松本清張賞受賞作家による“ものづくり小説*レビュー4.0点

ファースト・エンジン (集英社文庫)

ファースト・エンジン (集英社文庫)

【ものづくりの誇り】

戦闘機の新型エンジン開発に賭ける技術者たちの苦闘を描いた、松本清張賞受賞作家による“ものづくり小説”。

 【あらすじ】

エンジンメーカーで戦闘機に搭載する超音速エンジンを開発するプロジェクトが始動。

チームは様々な困難を乗り越え、国産初の新型エンジンの最終燃焼試験に漕ぎ着ける。

しかし、試験中、原因不明の爆発が起き、若手エンジニアが死亡、チーフの本庄は左遷され、プロジェクトは解散となる。

国産初のエンジンの完成させる夢を諦めきれない本庄は、かつてのプロジェクトメンバーと連絡を取り合い、爆発事故の原因を探り始める……。

【感想・レビュー】

航空工学やエンジンに関する専門用語が頻出して、(文系人間としては)スラスラといかない箇所はあるが、文体が平易で明晰、特に説明が分かり易いので、苦になるほどではない。

一般的に、「難解な事柄を平易に語る」のが頭の良い人の特徴だと思うが、その意味で、本作は、その文体に作者の知性がよく表れていると思う(……得てして、凡人は難解な事柄を難解に語り、愚者は平易な事柄を難解に語る)。

物語の主題は、『誇り高き技術者たちの熱き闘い』。組織内の権力闘争を織り交ぜながら、技術者としての誇りや技術者の熱い想いなどを描いている点で「下町ロケット/池井戸潤」を彷彿とさせるが、「下町ロケット」が感性に訴えるドラマであるのに対し、本作の方は、理性に訴えるノンフィクションの趣きがある(ような気がする)。

そのため本作は、「下町ロケット」ほどの劇的な感動こそないものの、抑制の利いた感情表現や叙述的な文体が一定のリアリティを醸し出して、淡々とした味わいの中にも物静かな感動を誘う物語となっている。

技術者たちの秘めた情熱と熱い闘いを、理系頭脳らしい透徹した眼差しと冷静な筆致で描いたドラマ。

夢の実現に向け、組織の理不尽に耐えながら、山積する課題を一つ一つ克服していく本庄とそのチームの姿に励まされる人は多いのではなかろうか。