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🔴本「一茶/藤沢周平」(文春文庫)*小動物を愛する好々爺のイメージが一気に崩壊*レビュー3.8点

一茶 (文春文庫)

一茶 (文春文庫)

小動物を愛する好々爺……小林一茶にはそんなイメージを抱いていたが、この本を読んでイメージ崩壊。まさかこんなにしたたかなオヤジだったとは!

【あらすじ】

本作は、江戸中期から後期にかけて、俳諧師として活躍した一茶の波瀾に満ちた生涯を辿った伝記小説。

【感想・レビュー】

俳諧の本流に取り入るための涙ぐましい自己アピール、日々の糧を得るための必死のパトロン探し、父の遺言を盾にとった横領まがいの遺産相続、晩年の三度に渡る結婚……その素朴な作風からは想像もできない俗物的エピソードの数々に唖然とし、辟易してしまうが、一方で、赤貧と漂泊の生涯にあって2万に及ぶ句を遺した事実は彼が只の俗物ではないことを如実に示している。一茶とは、一体どんな人物だったのだろう。その評価は難しいが、少なくともこの本を読む限りでは、「偉大な俗物」(あるいは「大俗物」)というのが一番近いような気がする。

読んでいて愉しい小説ではなく、むしろ「貧しさはここまで人を卑屈にさせるのか」といったネガティブな思いさえ感じる小説だが、貧しい庶民の姿を好んで描く藤沢周平にとっては、苦労人の生活者一茶の句と生涯は、かなり興味深い題材だったのだろう。一茶の醜い一面を描いても決して否定的ではないところに、この作家の一茶への傾倒ぶりとその作風の特徴が表れているような気がする(……この遅咲きの作家は、苦難に満ちた一茶の生涯に自分の半生を重ね合わせていたのかもしれない)。

どこまでが史実か、どこからが創作かはよく分からないが、人間一茶の一端に触れるには格好の本だと思う。しかし……蝨や蝿まで愛情を注ぐ人間と遺産を横領するほどの腹黒い人間とのギャップはなかなか埋まらない。