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🔴本「ハリネズミの願い」/トーン・テレヘン(新潮社)*言葉の持つ力や詩人の豊かな想像力が味わえる一冊*レビュー4.1点

ハリネズミの願い

ハリネズミの願い

動物を主人公にした本を50作以上発表しているオランダの人気作家トーン・テレヘンによる、大人のための《どうぶつたちの小説》シリーズの一冊。

 【あらすじ】

臆病で気難しいハリネズミは、他のどうぶつたちとうまくつきあえず、いつも独りぼっち。ある日、ハリネズミは、誰かを招待しようと思いたち、勇気を出して手紙を書く。

『親愛なるどうぶつたちへ/僕の家にあそびに来るよう、キミたちみんなを招待します/……でも、だれも来なくてもだいじょうぶです』

しかし、誰かが家に来たときのことをあれこれ想像すると、怖くなって、手紙は出せないまま。……果たしてハリネズミは友だちを作ることができるのか?

 【感想・レビュー】

物語の大半は、ハリネズミの悲観的な想像……訪ねて来た様々な動物たちとの気まずいやりとり……が綴られる。ハリネズミのあまりの自意識過剰ぶりとネガティブ思考には呆れてしまうが、クマ、ゾウ、クジラ、カメ、ロブスターなど多彩な動物たちの生き生きとした言動が、なんともユーモラスで面白い(まるで日本の「鳥獣戯画」を見ているよう)。また、それぞれの動物たちの個性が実に多彩で、中には身につまされるキャラも登場して、ドキッとさせられる(これは人間の個性の縮図とも言えるだろう)。

そして、驚くのは、この作家の言葉選びのセンス。こんな文章にあまり接したことがないので、とても新鮮だ。何というか、それぞれの言葉の本来の意味が確かなイメージを伴って紙の上から立ち昇って来る感じ、とでも言うのだろうか……とにかく、彼の手にかかると、ありふれた言葉の一つ一つがまるで生き物のように紙面で躍動するから不思議だ。まさにそこが詩人の才能なのだろう。

様々な動物たちの中で特に異彩を放っているのが、絶対に怒らないカメと、何に対しても怒りをぶつけるカタツムリ。彼らのやりとりは、素朴であるだけに核心を突いていて、度々ハッとさせられるし、ときには抽象的な概念にまで話が及んで、大人の思考さえも悩ませる。その哲学的なテイストもまた、本作の大きな魅力であると思う。

大人も子供も愉しめる良書。言葉の持つ力や詩人の豊かな想像力を味わうにはうってつけの一冊。