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🔴本「母性」/湊かなえ(新潮文庫)*人間の心の奥底に潜む「悪意」を表現*レビュー3.7点

母性 (新潮文庫)

母性 (新潮文庫)

人間の心の奥底に潜む「悪意」をこれだけうまく切り取って見せてくれる作家はそうはいないだろう。悪意のオンパレードの後に善意の存在を示して読者を救う手口はこの作家の常套手段だが、つくづくうまいなあと思う。「告白」も印象深いが、好きな作品は「花の鎖」。「イヤミス」感が薄いのが好みなのだが、本作は、結構そのテイストは濃いような気がする……。

【感想・レビュー】

本作は、母と娘、それぞれの回想を通して、母性とは何かを追求した作品。主要な登場人物は、慈愛に満ちた祖母とその祖母に心酔する母、そしてその母から産まれた愛に飢えた娘。さすが「イヤミスの女王」といわれるだけあって、この母親の祖母(実母)への愛情がかなり気持ち悪い。女のマザコンは見たことも聞いたこともないが、本当にこんな女がいるのだろうか。この母親が娘に示す愛情も余りにも利己的で、物語の唯一の常識人(祖母を除く)である娘が不憫でならない。更に不愉快なのが、その母親の夫(娘の父親)。これがまた(幼少時に父親から暴力を振るわれたせいで人格が歪んだという点を割り引いても)、夫としても父親としても最低としか言いようがない男で、読むほどにストレスが溜まっていく小説なのだ(こんな不快な物語を最後まで読み通せたのは、この作家の筆力のなせる技なんだろうが、自分の忍耐力も褒めてやりたい)。

 

この小説のテーマは、タイトルのとおり「母性」。母親が我が子に注ぐ無償の愛を指す言葉と考えられるが、それが母親の本能としてあらかじめ備わっている性質なのかどうかが、この物語の主要な論点のようだ。しかし、それが先天的なものか後天的なものか仮に解明できたとしても、それほど意味があるとは思えず(児童虐待や育児放棄等の原因を探る手掛かりにはなるかもしれないが……)、作者がこの小説を書いた意図が今ひとつ分からない。……やっぱり男は鈍感なんだろうか……。