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🔴本「真昼の悪魔」/遠藤周作(新潮文庫)*「愛とは何か、悪とは何か」を問い続けたカトリック作家の作品*レビュー3.9点

真昼の悪魔 (新潮文庫)

真昼の悪魔 (新潮文庫)

沈黙」が映画化され、本作がTV放映されるなど、今、遠藤作品が脚光を集めている。ブームなのだろうか。本作が書かれたのは昭和55年。何故今、遠藤周作なのかは、よく分からないが。

ちなみに、学生当時、「第三の新人」が全盛だったこともあって、遠藤作品は、安岡章太郎、吉行淳之介らの作品と共に幾つか読んだ記憶があるが、遠藤周作がこんなミステリーを書いているとは知らなかった。今回は、そんな意外な驚きと懐かしさから手にした本。

【あらすじ】

本作は、人間らしい感情を持たない美貌の女医が『いやらしい悪』を確信的に実行してゆく姿を通して、現代人の心の闇と精神の荒廃に迫った医療ミステリー。

【感想・レビュー】

何事にも無感動な主人公の女医は、良心の呵責という痛みを感じることができれば人間らしい感情が取り戻せるのではないかと考えて、その試みとして、いやらしい悪を次々と実行してゆく。この女医の絶望的な『無感動』は、「海と毒薬」の青年医師を彷彿とさせる(この点がこの作家の一つのテーマなのだろう)。その『無感動』と『悪』との関係について、作者の分身とも言える作中のキーマン、ウッサン神父は、こう指摘する。……『現代人は何が善で何が悪かわからなくなっている。そんな混乱した世界に長く生きてきた結果、どんな価値も素直に信用できなくなり、心は無秩序になり、無秩序は精神の疲れと空しさを作っている……悪魔はそこを利用して悪をさせようと狙ってくる』(要約)。この指摘は、(極端な例ではあるが)ホロコーストや無差別テロなどをイメージすると分かりやすいかもしれない。……そして、神父は女医に対し、こう諭す。『良心の呵責を求めるために悪を行うよりも心の悦びを得るために善いことをなさい、心に起きなくても形だけでもやるのです』。この説諭が『無感動』あるいは『いやらしい悪』に対するこの作家の一つの回答であるように思われる。

本作は、ミステリー仕立てのエンタメ小説ではあるが(ミステリーとしてはさすがに古さは否めない)、テーマは、現代人の渇いた心に巣食う悪であり、その点に宗教的命題を含んだ普遍性が感じられて、いかにも、「愛とは何か、悪とは何か」を問い続けたカトリック作家、遠藤周作らしい作品と言える。