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🔵映画「黄金のアデーレ 名画の帰還」*ヘレン・ミレンの代表作と言っていい名作*(2015アメリカ,イギリス)レビュー4.3点

黄金のアデーレ 名画の帰還 [Blu-ray]

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実話の重みがひしひしと伝わってくる、力強く骨太なヒューマンドラマ。モチーフはクリムトの名画「黄金のアデーレ」(「アデーレ・ブロッホ=バウワーの肖像1」又は「黄金の女」とも言う)。

本作は、オーストリア政府が所有していた名画「黄金のアデーレ」の所有権の帰属を巡る法廷闘争と、その陰で浮かび上がる一人の老女の悲しみの記憶を描いた、実話に基づく迫真のドラマ。

【あらすじ】

アメリカ在住の老女マリアは、姉の死をきっかけに、元々自分の一族が所有し、戦時中ナチスに奪われた名画「黄金のアデーレ」を、オーストリア政府から取り戻そうと決意する。彼女は、絵のモデルとなったアデーレ・ブロッホ=バウアーの姪で、その絵の正当な相続人だった。彼女に協力したのが新米弁護士のランディ。彼は、オーストリア政府と交渉すべくマリアをウィーンに誘うが、彼女はなかなか同意しない。ウィーンは、マリアの一族の悲劇が眠る街だったのだ……。

【感想・レビュー】

名画の返還を巡る国際的な駆け引きや法廷闘争が、分かりやすく描かれていて面白い(アメリカの最高裁判事の風格とユーモアが印象的)。最初は乗り気でなかったランディが、ウィーンで自身のルーツに目覚めて、マリア以上に前のめりになっていくところも、彼の人柄が滲み出ていて、素直に共感できる。また、オーストリアの調停手続での彼のスピーチも感動的で、忘れ難い。

そして、それらにも増して印象的なのは、マリアのウィーン時代の回想シーン。繁栄を極めた名家の一族が、ただユダヤ人というだけで、ナチスにすべてを奪われる……。老いた両親を残して命からがらアメリカに逃れたマリアの悲痛と悔恨は、察するに余りある。オーストリア政府から名画を取り戻すというマリアの信念の裏にある怨嗟や贖罪の想いに触れて、戦争とはこんなにも長く人を苦しめるものか、と愕然とする。その意味では、この映画もまた、優れた反戦映画と言えるのだろう。

マリアを演じたヘレン・ミレンは、幾つになってもタフで知的で魅力的な女優だ。イギリス出身の俳優(アンソニー・ホプキンス、マイケル・ケイン、ジュディ・デンチ、エマ・トンプソン等々)は皆、舞台で鍛えられているせいか、ハリウッド俳優とは風格や存在感が一味も二味も違う気がする(さすがシェイクスピアの国と言うべきか)。この映画は、ヘレン・ミレンの代表作と言っていい名作だろうと思う。