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🔴本「天下り酒場」/原宏一(祥伝社文庫)感想*魅力は常識人の思考の盲点を突く、着想(視点)のユニークさ*レビュー4.1点

天下り酒場 (祥伝社文庫)

天下り酒場 (祥伝社文庫)

10年程前に読んだ「床下仙人」は衝撃的だった。(内容はあまり覚えていないが……)ありえない状況設定なのに妙にリアリティがある、摩訶不思議な短編集だったと記憶している。

本作は、久々にそのテイストを彷彿とさせる短編集。「握る男 」も悪くはなかったが(「ムボガ」、「ヤッさん」はやや期待外れ)、やはり原宏一の真骨頂は、「床下仙人」や本作のような作品だろうと思う。

【感想・レビュー】

この作品集で最も洗練されているのは、「居間の盗聴器」だろう。しかし、この作家の持ち味が最もよく表れているのは、「ボランティア降臨」だと思う(「資格ファイター」のインパクトも捨て難い)。

「ボランティア降臨」は、怪我をした高齢者のいる家庭に突如現れた謎の介護ボランティアの女が、いつまでもその家庭に居座り続け、とうとう家事一切から家計まで仕切るようになって……というストーリーで、非日常の異様な光景が常態化することによって、次第に当たり前の光景に変わってゆく様子が描かれたホラーテイストの物語。妙に不気味なボランティアの女と一家の主婦との噛み合わない口論もナンセンス極まりなく、全編、シュールでブラック。これこそ原ワールド全開の物語だろう。

原作品の魅力は、常識人の思考の盲点を突く、着想(視点)のユニークさにあるような気がする。普通の人なら「ありえない!」と一笑に付してしまうようなバカバカしい冗談や思い付きを、独自の視点で俎上に乗せて、「アリかも?」と思わせる物語に再構築する手腕は、なかなか大したものだと思う。

原宏一の才能は、奇才とか異能と呼ぶに相応しいもので、まさに意表を突く面白さがある。これもまた、読書の愉しみを広げてくれる一冊。