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🔴本「コーヒーが冷めないうちに」/川口俊和(サンマーク出版)*2017年本屋大賞のノミネート作!希望が沸いてくる作品*レビュー4.2点

コーヒーが冷めないうちに

コーヒーが冷めないうちに

地下の狭い喫茶店、少数の登場人物、カウベルや柱時計などのごく簡素なセット(この物語は、時間移動だけで空間移動はない)……なるほど、いかにも舞台劇の演出家らしい(物語)設計だと思う。

【登場人物】

登場人物は、恋人に別れを切り出された才色兼備のキャリアウーマン(第1話)、若年性アルツハイマーを患う庭師とその妻の看護師(第2話)、実家を嫌う自由気儘なバーのママと健気なその妹(第3話)、無骨な喫茶店のマスターと天真爛漫なその妻(第4話)、クールでミステリアスなウェイトレス……そして、店でひたすら小説を読んでいる若い女の幽霊!

【感想・レビュー】

本作は、心に傷を負った人たちが過去又は未来の大切な時間にタイムスリップすることで心の平穏を取り戻してゆく様を描いた、4つの後悔と癒しの物語。

ストーリー設定と登場人物は結構シュールだが、その内容は人の心の弱さや強さ、生きる哀しみや歓びを真っ直ぐに描いたものばかり。文体に浮ついたところがなく、作品全体に落ち着きが感じられる点も好印象。とてもこれがデビュー作とは思えない。

この作品のメッセージが最も強く滲んでいるのは、第1話から第3話の総括とも言える第4話の『親子』。『心ひとつで、人間はどんなつらい現実も乗り越えていけるのだから、現実は変わらなくとも、人の心が変わるのなら……』、きっと現実も変えられる、だから人生は美しい……そう作者は伝えたいのだろう。

この作品は、哀しいけれど温かい。また、静かであるのに力強い。読後は、自然と過去の記憶が甦り、懐かしい人たちに励まされているような気がして、明日への希望が湧いてくる一冊。

本作もまた、2017年本屋大賞のノミネート作らしい。完成度が高く、候補に相応しい作品だと思う。難を言えば、第1話〜第3話がややベタな印象を受けるところか……。