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🔴本「桜風堂ものがたり」/村山早紀(PHP)*人として大切なことを教えてくれる作品*レビュー4.4点

桜風堂ものがたり

桜風堂ものがたり

物語が終わってしまうのが名残惜しくて、残りのページ数を気にしながら本を読んだのは、いつ以来だろうか。これは人を幸せな気持ちにしてくれる本。もし自分が書店員だったら、きっと、POPを作って店の一番目立つ所に並べていることだろう。

【ストーリー】

本作は、一冊の本を介して育まれる孤独な書店員の心の成長と、本を愛してやまない書店員たちの美しい絆を、伸びやかな筆致で描いたハートフルストーリー。

【感想・レビュー】

最初の数ページは、素人っぽい文章に少し落胆したが、読み進めるにつれ、気になる文章の粗も、むしろ登場人物たちの純粋で真っ直ぐな気持ちが素直に伝わってくる感じがして、かえって好ましく思えてくる。洗練された作品とは言えないだろうが、手作り品のような素朴さと温かみが作品全体から感じられて、ホッと気持ちが和む。その優しい感触がこの作品の特徴であり、美点だろうと思う。ストーリーに多少出来すぎのところはあるが、その点は大人のファンタジーと割り切って読むべきだろう。

この作品を通して最も共感するのは、書店員たちの本を愛する心。どうしてもこの本を売りたい、という気持ちは、人と感動を分かち合いたい、人と同じ想いで繫がりたい、あるいは人を幸せにしたいといった、損得勘定を超えた切実な願いであり、それ故、貴く美しい。一見ファンタジックなこの物語が強いリアリティを持って読む者の心を捉えるのは、本好きにしか分からない、その熱い想いの故だろう。その意味で、この作品は作者が書店員に贈ったエールであり、本を愛するすべての人への贈り物なのだろうと思う。

一冊の本から生まれる小さな奇跡を通して、人を信じる心の貴さ、大切な人を想う心の美しさ、一歩を踏み出す勇気の大切さなど、人として大切なことを教えてくれる作品。2017年本屋大賞ノミネート作(過去の受賞作の傾向から察すると、選考委員好みの作品ではあると思う。問題はこの作品の完成度だろうか……)。