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🔵映画「愛、アムール」*名優ジャン・ルイ・トランティニャンとエマニュエル・リヴァの迫真の演技が光る一作*(2012フランス,オーストリア,ドイツ)レビュー3.7点

愛、アムール [DVD]

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とても良質の映画なのだが、二回は観たくない映画というものがある。自分にとって、「ソフィーの選択」、「ライフ・イズ・ビューティフル」、「オアシス」などがそうだった。個人的には、この映画もそのジャンルに入るかもしれない。

描かれているのは、老いと夫婦愛。

【あらすじ】

パリのアパルトマンで満ち足りた老後を送る元音楽家夫婦。だが、ある日、妻が突然発病し、手術を受けることに。手術が失敗し、自らの死期を悟った妻は、もう病院には戻さないで、と夫に懇願する。夫は妻の願いを聞き入れ、自宅で妻を献身的に介護するのだが、その容態は日に日に悪化してゆく……。 

【感想・レビュー】

老老介護の実態を、美化も粉飾もなくありのままに捉えた、ドキュメンタリータッチの映画。カメラはアパルトマンの室内からほとんど動くことなく、ただ夫婦の濃密な時間だけを冷徹に写し取っていく。慈愛と思いやりに満ちた夫婦愛と過酷な介護の現実……そのギャップの大きさに言いようのないやるせなさを感じてしまう。そして最後に、夫はある決断を実行する……。この映画は、その夫の行為を自分の中でどう整理するか(肯定するか、否定するか)が評価の別れ目だろうと思う。整理の仕方は人それぞれだろうが、自分の人生観が問われる究極の場面ではある。

また、この映画には、老夫婦と娘夫婦との確執めいた場面も現れる。老夫婦と独立した娘との微妙な距離感に、夫婦愛と親子愛の本質的な違いを見るようで、その点も興味深い。

病、老い、死……誰もが考えたくない問題ではある(それはある意味健全なこととも思える)が、死を考えることは生を考えることでもある。より良く生きるために、たまにはこういう映画を直視することも大切なのかもしれない。

夫婦の究極の愛の形を一切の虚飾を排して描いたリアリティのある映画。老夫婦を演じた名優、ジャン・ルイ・トランティニャンとエマニュエル・リヴァの迫真の演技が光る一作。