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🔵映画「過去をもつ愛情」*フランスらしい芳醇な香りの漂う大人の恋愛作品*(1955フランス)レビュー4.3点

過去をもつ愛情 HDリマスター版【初DVD化】

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以前「パリジェンヌ/1961フランス」で観たフランソワーズ・アルヌールは、悪戯っぽくて小悪魔的なパリジェンヌという印象だったが、本作では打って変わって、翳のある魅惑的な未亡人役を情感豊かに演じている。

【あらすじ】

妻の密会現場を目撃したピエールは衝動的に妻を殺害してしまう。裁判の結果は無罪だったが、自分を許せないピエールはリスボンに流れ着き、タクシー運転手としてひっそりと暮らしている。そんなある日、ピエールはロンドンから来た若き未亡人カスリーンと知り合い、お互いの境遇を語り合ううち次第に惹かれ合い、やがて二人は深く愛し合うようになる。しかし、彼女もまた、ピエールと同じように忌まわしい過去を忘れるためにリスボンに渡ってきたのだった……。

【感想・レビュー】

男を一途に想う女、女の想いを信じられない男。愛の深さゆえにすれ違う男と女の悲恋を描いた、メロドラマの古典的名作。

モノクロの陰影に富んだ画像が恋人たちの歓びや苦悩の輪郭を際立たせて印象深く、とりわけナザレの浜辺に打ち寄せる白波と戯れる恋人たちのシーンは息を呑むほどに美しい。また、フランソワーズ・アルヌールのアンニュイな美も印象的で、憂いに満ちた佇まいの中に妖しい官能を匂わせて蠱惑的ですらある。

ストーリーも、恋人たちの危うく、脆い心の動きが心理ドラマ風に描かれていて面白く、二人の恋の結末も、宿命とか必然を思わせて説得力がある。

言葉でしか伝えられない想いと、言葉では決して伝わらない想い……信じ合うこと、分かり合うことの難しさをしみじみと痛感し(「恋愛とは美しい誤解」と誰かが言っていたような気がする)、ラストのカスリーンの決意に愛の強さと儚さを見て、深い感慨に囚われる。

いかにもフランスらしい芳醇な香りの漂う大人の恋愛映画。