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🔵映画「ブリキの太鼓」*濃いスープをドップリと飲まされたような気分になる作品*(1979ドイツ)レビュー3.8点

ブリキの太鼓 [DVD]

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ドイツのノーベル賞作家ギュンター・グラスの同名小説の映画化。ちなみに原作の方は、一時期ブームになったので一応買ってはみたのだが、余りの分厚さに恐れをなして、未だに1ページも開いていない。しかし、この映画を観た後で読む気になれるかどうか……。

【あらすじ】

大人並みの知能を備えてこの世に誕生したオスカルは、大人の世界の醜悪さに絶望し、3歳の時、自らの意志で階段を落ち、成長を止めてしまう。彼はブリキの太鼓を肌見離さず持ち歩き、取り上げられそうになると、声帯から発する超音波でガラスを割って周囲に抵抗する。そんな彼を見かねた母親は、ノイローゼの果てに自殺してしまう。やがてドイツではヒトラーが台頭し、次第に彼も戦火の渦に巻き込まれていく……。

【感想・レビュー】

なんて奇怪で不気味でパワフルな映画だろう。世に「怪作」とか「問題作」とか呼ばれる作品は数多あるが、ただひたすら悪の可能性を追求している点で、これこそが「怪作」と呼ばれるに相応しい映画だろうと思う。

オスカルの誕生シーンのグロさ、太鼓を叩いては奇声を発するオスカルの異様さ、オスカルを苛める悪童たちの残酷さ、一斉にナチズムに感化され、ユダヤ人排斥に走る街の人々の愚かさ……。そんな毒気に当てられて徐々に不快感が募っていくが、この映画には、そんな不快感を吹き飛ばしてしまうほどの圧倒的なエネルギーがある。それは凶々しい、負のエネルギーではあるが、有無を言わせぬ力があって、観る者の常識を嘲笑し、良心を蹂躙する。良くも悪くもそんなパワーを感じる映画。

特に印象的なのは、ナチス高官の演説会に集まった群衆が、音楽隊の場違いな演奏に合わせてワルツを踊り出すシーン。そのアイロニーは余りにも痛烈で、この映画が人間の愚かさを描いた寓話だとすれば、それを象徴する名シーンと言える。また、時折挿入されるオスカルのモノローグも印象的。その言い回しには詩的な響きがあって文学的な格調を感じさせ、この作品の質を高めるのに効果を上げている(原作からの引用なのだろうか)。

この映画の救いは、オスカルが再び成長を決意するシーンだろうか。そこに家族も恋人も失ったオスカルの再生の姿を見せられて、少しは安堵する。

濃いスープをドップリと飲まされたような気分の映画だが、人間の本質の一端を鋭くえぐり取った稀有の一作。