お気楽CINEMA&BOOK天国♪

お気楽CINEMA&BOOK天国♪

金はないけど暇はあるお気楽年金生活者による映画と本の紹介ブログ

🔴本「盤上の夜」/宮内悠介(創元SF文庫)*ただただお見事と言う他ない文句なしの一作*レビュー4.4点

盤上の夜 (創元SF文庫)

盤上の夜 (創元SF文庫)

宮内悠介の作品は初めて読んだが、正直、驚いた。テーマの壮大さといい、散文と詩が一体化したような文章といい、卓抜なストーリーテイリングといい、ただただお見事と言う他ない。新たな才能に出くわした時の新鮮な驚きと喜びを感じずにはいられない極上の作品集。

【内容】

本作は、囲碁、チェッカー、麻雀、古代チェス、将棋などのゲームをモチーフに、対局者の息詰まる戦いの果てに現れた奇蹟の瞬間などを描いた6篇の短編を収録した作品集。 

【感想・レビュー】

どの作品もレベルが高く甲乙付けがたい出来。共通して感じるのは、対局者の「孤高」……(かなり的外れな印象のような気はするが、直観的にはまずその言葉が頭に浮かぶ)。こういった勝ち負けを競うゲームは、当然ながら相手との戦いなのだが、ある意味、自分との戦いでもある。盤上、あるいは卓上に向き合うことは、自分の弱さに向き合うことに他ならないからだ。自分の弱さと戦いながら、常に最善手を求めて高みを目指す対局者の姿はさながら求道者の趣があり、未知の世界への一手の踏込みは神に挑戦する所業のようにも思われる。その峻烈さに「孤高」という言葉を思い起こさずにはいられない(もちろんそれがこの作品集のテーマという訳ではないのだが)。

この(SF)作家の特徴が最もよく表れている作品は、「象を飛ばした王子」なのだろうか(他の作品を知らないので、何とも言えない)。ゴータマ・シッダルータ(ブッダ)の出奔後のカピラバストゥ国の王子ラーフラ(ブッダの息子)の魂の遍歴と、彼が考案した盤上遊戯への想いを綴ったこの作品は、時空を超えた壮大なスケールでゲームの起源に迫りつつ、人生の意味を問う物語でもある。知的で神秘的で非常に純度の高い、文句なしの作品だと思う(これが好みというだけで、他の作品の魅力も捨てがたい)。

宮内悠介、恐るべし!物語の世界に新たな地平を切り拓いた、驚嘆の一冊。