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🔵映画「ラルジャン」*映画に芸術性を求める人にはオススメ*(1983フランス, スイス)レビュー3.9点

ラルジャン [DVD] KKDS-21

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これは好き嫌いのハッキリ分かれる映画。映画に娯楽性を求める人にはシビアな作品だろうが、映画に芸術性を求める人にはうってつけの作品だろう。

【あらすじ】

本作は、芸術監督として名高いロベール・ブレッソン監督作品。トルストイの中編小説「偽の利札」にインスピレーションを得た作品で、友人への借金の返済に困った少年が使った一枚の偽札が負の連鎖を生み、最後にその偽札を受け取った一人の男の運命を狂わせていくというストーリー。

【感想・レビュー】

この映画の特徴は、事象の徹底的な省略化、単純化にあり、とにかく遊びや無駄がない(セリフが少なく、音楽も、劇中の老人が弾く「半音階的幻想曲/バッハ」程度)。この監督、単純化が正確さを生み、それが映像の力強さを生むと確信しているようだ。

その上、登場人物に向ける視点が冷徹で容赦なく、救いも希望も全く見当たらない。不親切というか、サービス精神がないというか、観客にこれだけ媚びない監督も珍しい。それだけにこの映画の緊張感はハンパなく、わずか84分の短さにもかかわらず、鑑賞後は、ちょっとした脱力感と解放感に浸される。ただ、監督の意図したとおり、独特の力強さ(うまく言えないが、隅々まで完璧に計算され尽くした空間の揺るぎのない美であるとか潔癖さのようなもの)を感じる映画ではある。

生涯、ストイックな姿勢で芸術を追求し続けたブレッソン監督の孤高の魂が宿った作品。個人的には決して好きとは言えないが、妙に脳裏にこびりつく映画ではある。好き嫌いにかかわらず、いつまでも記憶に焼き付いて頭から離れない映画……意外とそんな映画が名作というものかもしれない。