お気楽CINEMA&BOOK天国♪

お気楽CINEMA&BOOK天国♪

金はないけど暇はあるお気楽年金生活者による映画と本の紹介ブログ

🔴本「深淵の覇者 新鋭潜水艦こくりゅう『尖閣』出撃」/数多久遠(祥伝社文庫)感想*圧倒的リアリティで描かれた沈黙の戦い*レビュー4.1点

深淵の覇者 新鋭潜水艦こくりゅう「尖閣」出撃 (祥伝社文庫)

深淵の覇者 新鋭潜水艦こくりゅう「尖閣」出撃 (祥伝社文庫)

【近未来の予言の書?】

私、根っからの高所&閉所恐怖症。だから、飛行機にも乗れず、旅行はもっぱら新幹線、泊まる所は極力平屋の旅館。昔から絶対ムリと思っていた職業は、鳶職と潜水艦の乗組員ですw

で、今回は、中国の最速潜水艦と日本の見えない潜水艦の熾烈な戦いを描いたミリタリー・サスペンス。

面白いけど、ゾッとする小説です。もちろん潜水艦の密閉空間が怖いのもあるんですが、最先端の防衛装備品や「尖閣」を巡る政治的・軍事的シチュエーションなど、作品のディテールがリアルすぎて、“この展開、満更フィクションでもないんじゃね?”と思わせるところが怖いです。海洋進出の野心を隠さなくなった最近の中国を見ていると、尚更その感を強くします。

過剰反応は禁物ですが、国家間の関係では油断も楽観も禁物。この作品が近未来の予言の書とならないよう願うばかりです。

【あらすじ】

尖閣諸島に中国軍駆逐艦が接近。牽制のため出動した海自駆逐艦『あきづき』が突如魚釣島近海で消息を断つ。

やがて、あきづきが中国の新型潜水艦『アルファ改』によって撃沈されたことが判明し、日本初の女性首相・御厨は、新型ソナー兵器「ナーワルシステム」を搭載した潜水艦『こくりゅう』の投入を決定する。こくりゅうの艦長・荒瀬は、領有権主張のデモンストレーションのため尖閣沖に派遣された空母『遼寧』への攻撃命令を受けていた。

一方、ナーワルシステムを開発した技官の木村美奏乃は、5年前荒瀬の指揮する潜水艦で不審死した恋人の死の真相を究明するため、荒瀬との接触の機会を窺っていた。

そして、遼寧に修復不能の損害を与えたこくりゅうに再び出動命令が下される。沖縄の海でアルファ改によって海自の潜水艦が撃破されるという由々しき事態が勃発したのだ。

中国軍の野望を挫くため、美奏乃を乗せたこくりゅうは、アルファ改の潜伏する沖縄の海へと一路南下する。

敵の魚雷攻撃を60ノットのスピードで難なく躱す最速潜水艦アルファ改と、ナーワルシステムで敵の探知を躱す見えない潜水艦こくりゅう……いずれ劣らぬバケモノ艦同士の国運を賭けた海中バトルが始まった。

果たして決戦の行方は?……そして美奏乃は恋人の死の真相に辿り着くことができるのか?

【感想・レビュー】

潜水艦モノの私のイチオシは、「沈黙の艦隊/かわぐちかいじ」ですかね。全32巻の長編漫画ですが、“現実論に立脚した世界平和の在り方”を問うスケールの大きな作品で、私、これを読んで初めて潜水艦の兵器としての優位性を理解しました(思想や哲学が感じられるという点で、「火の鳥/手塚治虫」と並ぶ私の愛読書です)。

あと、パッと頭に浮かぶのは、「眼下の敵」とか「レッド・オクトーバーを追え!」とか「クリムゾン・タイド」あたりでしょうか。

潜水艦モノに比較的ハズレが少ないのは、たぶん“密室性”と“不可視性”という潜水艦の特質が関係しているんだろうと思います。逃げ場のない密室状況下で見えない敵と戦うというクライシス感が否が応にも読者(観客)の興奮を掻き立てるんでしょうね。

この作品も、こくりゅうとアルファ改の交戦の場面は出色の出来と言ってよいかと思います。頼みとなるのは先端装備と知力と胆力のみ。荒瀬艦長と林艦長の知謀の限りを尽くした頭脳戦と激しく魚雷が交錯する交戦の模様は、緊迫感と臨場感に溢れていて、まさに圧巻。この作家の筆力はたいしたものだと思います。

林艦長を通して明かされる中国軍の内部事情もなかなか興味深いですね。軍のトップの失脚を狙って空母遼寧を見殺しにする林艦長の深謀遠慮など、中国軍ならさもありなんと思わせる説得力があります。

この作品のストーリーは、こくりゅう(荒瀬)とアルファ改(林)の死闘、美奏乃の恋人の死の真相究明の二つが軸になっていますが、前者のスケールがあまりに大きいために後者への興味が薄れ、両者間でミスマッチを起こしている気がしないでもありません。フィクションとしてはそこが惜しいところかなと思います。美奏乃もそれほど魅力的なキャラとは思えず、少し鬱陶しく感じる位なので、むしろこちらの軸は省くか早めに収束させて、日中間の緊張関係などの背景描写に注力した方が良かったような気もします。

しかし、この作品のリアリティは凄いですね。圧倒的な情報集力と的確な分析力は、さすが元幹部自衛官と感心します。東アジア情勢がキナ臭くなっている今だからこそ、この作品を読んで国防の意味を考えてみるのも有意義かと思います。

ちなみに、私にとっての国防(国を守ること)とは、愛する家族を守り、自分の住む町や故郷を守ること。国防の要となる愛国心は、あくまで家族愛とか郷土愛といった個々の国民のごく自然な感情の延長線上にあるものと理解しています。愛する家族を守るためどのような国のカタチ、自衛のカタチがベストなのか、そこを出発点として、自分なりに国防の在り方を考えていきたいと思っています。