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🔴本「次回作にご期待下さい」/問乃みさき(角川文庫)感想*漫画バカたちの汗と涙と笑いの物語*レビュー3.8点

次回作にご期待下さい (角川文庫)

次回作にご期待下さい (角川文庫)

【愛すべき漫画バカたち】

月刊漫画の出版社で働く若き編集長の悪戦苦闘のエピソードをユーモラスに描いたお仕事小説。

少年サンデーや少年マガジンの創成期に少年時代を過ごした者としては、彼らの漫画バカぶりにいたく共感(少年キングってのもありましたね。チャンピオンとジャンプはだいぶ後発だったような……)。

テレビがようやく普及し始めた頃で、子供向けエンタメの主流はまだまだ漫画だった時代、サンデーとマガジンは当時の自分にとってはバイブルのような存在でした。ちなみに小学生の頃一番熱狂した漫画は「伊賀の影丸」。影丸、阿魔野邪鬼、木の葉隠れの術……あぁ、懐かしい!

この小説を読んで、4kmも離れた町の書店までワクワクしながらサンデーを買いに行ってた頃を思い出しました。実は私、「鉄人28号」の似顔絵を今でもスラスラ描けるのが密かな自慢ですw

【あらすじ】

月刊漫画誌の若き編集長眞坂は、ビルの夜間警備員の夏目を見かけて、以前どこかで会ったことがあるような、不思議な既視感に囚われる。

その後偶然、眞坂は、アパート火災の現場で、燃え盛るアパートに飛び込み、古い漫画雑誌を抱えて戻って来た夏目を目撃する。

なぜ命懸けで漫画雑誌を?不思議に思った眞坂は、漫画に関しては天才的センスを持つ同期の蒔田とともに、夏目の調査を開始する。

やがて二人は、夏目がかつて一世を風靡した人気漫画家だったことに気付くのだが……(『次回作にご期待ください』)。

他、女子高生漫画家の盗作騒動を描いた『遺言執行人CRY』を併録した連作小説集。

【感想・レビュー】

ドジでお人好しの編集長眞坂と破天荒な編集者蒔田が主人公。この手の凸凹コンビはわりとよくある設定で、ベタと言えばベタ。蒔田のキャラもちょっとウザいし、読み易いのはいいけれど、「あぁ、またこのパターンか」と、やや出鼻をくじかれた気分です。

しかし、ナメてかかるといけませんね。読み心地はライトでも、中身は意外な程シリアス。油断してると、時々ハッとするようなヘビィな言葉に出くわします。

例えば……『漫画家や漫画原作者は、描きながら、自分が描いているその世界の中に生きている。その世界の中に生きるからこそ、その世界を描いていける。彼らにとっての打ち切りとはつまり、自身が生きる世界の終わりだ』なんてとこ。

打ち切りを宣告される漫画家の辛さと、その辛さを痛いほど分かりながらも打ち切りを宣告せざるを得ない編集者の辛さ……この業界の厳しさがよく分かる一文です。

……で、ついつい惹き込まれ、一気に読了。なかなかどうして、見かけによらず?骨っぽいというか、一本芯が通っている小説です。その芯というのが、純粋な漫画愛であったり、バカ真面目な仕事愛ということなんでしょうね。登場人物のそういったがむしゃらな想いが読者の琴線をくすぐる“泣きどころ”であり、つまりはお仕事小説のキモなんだろうなと思います。作者はその辺りのツボをよく心得ていらっしゃるようです。

ミステリータッチの展開も作者の工夫が偲ばれて、好印象。特に『遺言執行人CRY』 は、謎めいたストーリーが興味をそそり、若者たちの真っ直ぐな想いが心に響く、気持ちのこもった良作だと思います。