お気楽CINEMA&BOOK天国♪

お気楽CINEMA&BOOK天国♪

金はないけど暇はあるお気楽年金生活者による映画と本の紹介ブログ

🔴本「書店主フィクリーのものがたり」/ガブリエル・ゼヴィン(ハヤカワepi文庫)感想*本をこよなく愛する人への素敵な贈り物*レビュー4.4点

書店主フィクリーのものがたり (ハヤカワepi文庫)

書店主フィクリーのものがたり (ハヤカワepi文庫)

【本を愛する人のための本】

2016本屋大賞「翻訳小説部門」1位の作品。

本好きにぴったりの本です。主人公フィクリーの“本”への偏愛ぶりに同士愛を感じて、何だか懐かしい友人に出会ったような気持ちになります。書店や本をテーマにした小説では、『チャリング・クロス街84番地』以来の感動本かも。

作中、様々な本が紹介されていて、アメリカの現代文学に疎い自分にとって、大変参考になる作品でもあります。

 【あらすじ】

アリス島にたった一軒しかない書店の店主フィクリーは、妻を交通事故で亡くし、その上唯一の財産ともいえるE.A.ポーの稀こう本まで盗まれて、どん底の日々。

そんな中、フィクリーは、店に2歳の女の子が捨てられているのを発見する。女の子の傍らには、“書店主様へ。この子の名前はマヤ。とても賢い子です。どうかマヤを本好きの子に育ててください”という母親からの書き置きが。

ひとりぼっちのフィクリーは、同じ境遇のマヤに同情し、一人でマヤを育てる決意をする。

偏屈で皮肉屋のフィクリーに対しそれまで懐疑的だった街の人びとも、彼の奮闘振りに次第に心を寄せていく。

そして、マヤの成長とともに、フィクリー自身の生活も大きく変わっていく……。

【感想・レビュー】

この作品はどストライク。確か、2017年本屋大賞「翻訳小説部門」1位は、「ハリネズミの願い」だったと思いますが、個人的には、こちらの方が断然好みです。

なによりフィクリーの“本”への偏愛ぶりが好印象。たとえ彼の読書傾向が若干マニアックなものであるとしても、そこに揺るぎのない哲学が感じられるところが大いに気に入っています(根っからの本好きって、そういうものでしょう!)。

そして、もう一つのお気に入りは、この作品の“洗練されたユーモア”。決して楽しいエピソードばかりではないこの作品が明るさを失わないのは、そのユーモアが醸し出す軽妙な雰囲気のお陰だろうと思います。もっとも、その軽妙さを安っぽいと捉える向きもあろうかとは思いますが。

いずれにしても、日本の作家にはないセンスが新鮮です。この種のユーモアはアメリカ独特のバックグラウンド(国民性とか文化とか)に由来するもののように感じます。

ストーリーとしては、どちらかと言えば淡々とした印象なのですが、先程の“洗練されたユーモア”のお陰で、ストーリーよりむしろセンスの良い会話の方に惹き込まれて一気読み、という感じの作品かと思います。

最初はいけ好かない印象のフィクリーや真面目が取り柄のランビアーズ署長が(気の利いたセリフのお陰で)頁を捲るごとにどんどん魅力的になっていきます。映画でいえば、俳優の演技力で成功した作品ってトコでしょうか。それ位、登場人物がみな生き生きしています。

この作品には素敵な言葉が数多く散りばめられています。その中から最も印象的なフィクリーの言葉を紹介します。

「ぼくたちはひとりぼっちではないこと知るために(本を)読むんだ。ぼくたちはひとりぼっちだから(本を)読むんだ」

本を読むのは孤独な作業ですが、その先には豊かな世界が広がっています。その豊かさに触れることで孤独が癒されるときもあるし、その豊かさを知る多くの本好きを想像して孤独が癒されるときもある……ということでしょうか。確かに、そういう“救い”こそが本の持つ力であり、読書の悦びなのかもしれませんね。