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🔴本「影踏み鬼」/翔田寛(双葉文庫)感想*人間の業の深さを思い知らされる、ホラーに限りなく近い時代ミステリー*レビュー4.2点

新装版 影踏み鬼 (双葉文庫)

新装版 影踏み鬼 (双葉文庫)

【鮮やかなどんでん返し】

切れ味鋭い文体、緻密な構成、意表を突く結末、どれをとってもハイレベルな、乱歩賞作家による表題作外4篇を収録した短編集。

人間の業の深さを思い知らされる、ホラーに限りなく近い時代ミステリーですが、最後のどんでん返しで救われます。

【あらすじ・感想・レビュー】

舞台は江戸後期から明治初期にかけての江戸又は東京。奇怪な事件の顛末とその裏側に隠された驚愕の真実を描いた短編集です。

人間の救い難い業を描いて、生々しくもおぞましく、その罪深さに慄然とする作品ばかりですが、一方でどれも静謐な美しさも湛えていて、後味は不思議と悪くありません(むしろホロリとさせられます)。それは、たぶんラストのどんでん返しで明らかになる、切ない人情や人間の真心(良心)に打たれるからだろうと思います。そのあたりの清濁のバランスが絶妙で、かなり緻密に計算された短編集という印象を受けます。

この短編集の中で最も感銘深いのは『奈落闇恋乃道行(ならくのやみこいのみちゆき)』でしょうか(『血みどろ絵』も好きです。……もっとも、小説としての完成度なら『影踏み鬼』が一番かもしれません)。

……人気歌舞伎役者坂東彦助の不可解な自殺の謎を追う一座の黒子(語り手)。彦助と品川芸者小浜との愛憎、小浜を巡る彦助と他の一座の重鎮役者との恋の鞘あて、彦助と一座の弟子たちとの確執などの実相を探るうち、黒子が辿り着いた衝撃の真実とは?……というストーリーですが、幾重にも張り巡らされた伏線が一気に回収される劇的なラストは圧巻の一言、加えて、道ならぬ恋に殉じた彦助と、彦助を一途に想う小浜のあまりにも切ない心模様が深い余韻を残します。この作品はミステリーとして読んでも人情小説として読んでも一級品だと思います。