お気楽CINEMA&BOOK天国♪

お気楽CINEMA&BOOK天国♪

金はないけど暇はあるお気楽年金生活者による映画と本の紹介ブログ

🔴本「あと少し、もう少し」感想*駅伝小説にハズレなし*瀬尾まいこ(新潮文庫)レビュー4.1点

あと少し、もう少し (新潮文庫)

あと少し、もう少し (新潮文庫)

【駅伝小説にハズレなし】

この小説、同じ駅伝小説の『風が強く吹いている/三浦しをん』や『チーム/堂場瞬一』に比べるとやや小粒な印象は受けますが、瀬尾作品ならではの“伸び伸び感”や“ほっこり感”が味わえて、これはこれでとても素敵な作品だと思います。

瀬尾さんの小説は、春のひなたの匂いがします。この作品も、ポカポカ陽気の中で“うーん”と伸びをした気分になる一冊だと思います。

【あらすじ・感想・レビュー】

駅伝の県大会出場を目指して集まった6人の個性溢れる中学生たちが、走ること、襷を繋ぐことで様々なことを学びながら、少しずつ成長していく姿を描いた青春小説。

駅伝小説は素直に感動します。なんでかなあと考えてみると、やっぱり“自分のためでなく誰かのために走る”という競技の精神が貴いからなんだろうと思います。一人では背負いきれないほどのプレッシャーと戦いながら、ひたすら仲間のために走り抜くランナーの姿は理屈抜きに美しいと思います。“襷を繋ぐ”という言葉にこの競技のすばらしさが全て凝縮されているような気がします。

この作品では、悪ガキで喧嘩っ早い大田、元いじめられっ子の設楽、人の頼みを断れないジロー、いつも斜に構えている渡部など、個性的なメンバーが登場します。それぞれ屈折した想いを抱えながらも、次第に仲間のために走ることの意味に気付いていく様子は、とても清々しいものがあります。そして、彼らにも増して魅力的なのが、なんだか頼りないけど、たまには何とかしてくれる、脱力系顧問の上原先生。この“のほほん”とした感じが瀬尾さんの真骨頂ですね(実は、瀬尾作品を読む度に、あだち充の漫画を連想してしまいます)。この作品にスポーツ小説にありがちな暑苦しさを感じないのは、たぶんこの上原先生のお陰なんだろうと思います。いつも自然体、そのナチュラルで無理のない感じに、生徒たちだけでなく、読者もまた癒されます。

この作品、ぜひ中高生あたりに読んでほしいですね。誰かのために力を尽くすことのすばらしさに気付いたら、きっと世界がいつもと違って見えるだろうと思います。