🔴本「フラダン」感想*課題図書に相応しい、若者にピッタリの良書*古内一絵(小峰書店)レビュー4.2点
【若者のしなやかな感性と行動力】
この作品は、震災から5年たった福島を舞台に、フラダンスに打ち込む高校生の日常を描いたものです。キラキラした青春と復興半ばの福島の現実との明暗に思いは複雑ですが、若者たちのしなやかな感性と行動力には素直に感動します。青少年読書感想文コンクール(高校の部)の課題図書に相応しい、若者にピッタリの良書だと思います。
【あらすじ】
震災から5年、福島の工業高校に通う辻本穣は、水泳部の体質に嫌気がさして退部し、今や気楽な帰宅部生活。そこに目を付けたのが、フラダンス愛好会「アーヌエヌエ・オハナ(虹のファミリー)」の部長澤田詩織。詩織は、嫌がる穣にフラダンス愛好会への入部をしつこく迫り、穣と仲良しのイケメン帰国子女柚木宙彦を抱き込んで、ついに穣に入部を承諾させます。
詩織の目標は、男女混合によるフラガール甲子園出場。2年生の穣と宙彦の外、新たに1年生の男子部員2人も加わって、新生アーヌエヌエ・オハナは順調にスタートを切ります。
しかし、彼らが仮設住宅へ慰問に訪れたとき、事件が起きて……詩織は激しく動揺し、フラダンスへの情熱を失ってしまいます。
やがて、詩織不在のまま、フラガール甲子園の幕が切って落とされ……。
【感想・レビュー】
若い読者を意識してか、とても素直で分かりやすく、読みやすい文章です。特に、ビビッドな若者言葉はストレートに胸に響いて印象に残ります。キャラ的には、金髪のヤンキー娘、浜子の存在感が際立っています(他のメンバーも相当濃いキャラなのですが)。「こんな孫がいたらハラハラし通しだろうけど、きっと可愛くてたまらんだろうなぁ」なんて、ついじいちゃん目線でほっこりしてしまいます。浜子ちゃん、最高ww
この作品のお陰でフラダンスにもシンパシーを感じるようになりました。ただ優雅なだけの舞踊と思っていたら、結構ハードなバリエーションもあったんですね。芸の道は何事も深いものです。
この作品は、そんなキラキラした青春を描きつつ、一方で復興半ばの福島の現実もフラットな視点で描いています。その明と暗、光と影のコントラストが読者に深い感銘を与えているのだと思います。作中、とても印象的なフレーズがあったので、以下参考までに紹介します。
震災で愛犬を亡くした林マヤの悲しみに触れて、穣は思う……
『この世は自分たちの手には到底負えないほど大きくて、深い悲しみと理不尽でできている』
……大切なものを喪くした被災者の気持ちを代弁した、重い言葉だと思います。
フラガール甲子園の会場で、いつまでも姿を見せない詩織に、穣が語りかける……
『つらい気持ちも、悲しい気持ちも、変わってしまった町のことも、どうにもできない自分自身のいらだちも、もっと率直に言葉にするべきだった。妙に気を遣って、口をつぐんでいたのは、気遣いじゃなく怠慢だ』
……被災者の心の叫びが聞こえてくるようです。『被災者に寄り添う』とか『絆』などといった耳触りの良いフレーズを軽々しく受け止めていた自分が何だか恥ずかしくなります。
でも、穣や詩織、浜子たちを見ていると「世の中まだまだ捨てたもんじゃない」とも思えます。つらい事があっても、仲間を信じ、しなやかに逆境に立ち向かう若者たちは、本の中だけではなく、きっと現実にもいっぱいいるんだろうと思います。
この場を借りてエールを送ります……がんばれ、福島の若者たち!日本の若者たち!