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🔵映画「つながれたヒバリ」感想*ベルリン国際映画祭金熊賞を受賞した、曰く付きの一作*(1969チェコスロバキア)レビュー4.3点

つながれたヒバリ イジ―・メンツェル監督 [DVD]

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【逆境に負けない人々の人間賛歌】

『スイート・スイート・ビレッジ』の名匠イジー・メンツェル監督作品。

反体制映画として20年近く上映が禁止され、解禁後の1990年にベルリン国際映画祭金熊賞を受賞した、曰く付きの一作。

【あらすじ】

社会主義体制を推進する1948年のチェコスロバキア。政治犯の元ブルジョワジーの男たちは、国外逃亡を図った女たちとともに、再教育として屑鉄のスクラップ工場で働かされる。

囚人扱いの彼らは、自由を奪われながらも、監督者の監視の目をかいくぐって、サボタージュしたり、束の間の男女の交流を楽しんだりして、日々を逞しく過ごす。

そんな中、パヴェルとイトカは、他の囚人たちに見守られながら、慎ましく愛を育み、収容所内で結婚する。

しかし、結婚後間もなく、パヴェルは、政府を批判した咎で秘密警察に連行されてしまう……。

【感想・レビュー】

チェコスロバキアでは、1948年の政変で労働者階級が権力を掌握し(「プラハのクーデター」)、以降、ブルジョワ階級が弾圧される。

本作の主な登場人物は、西洋思想を放棄しようとしない哲学教授、被告人の権利を主張する検察官、ブルジョワの楽器サキソフォンを手放さないサックス奏者、信仰上の理由から土曜の労働を拒否するユダヤ人コックなど、自分に嘘のつけない、ある意味反骨の(元ブルジョワジー)の面々。タイトルの『つながれたヒバリ』とは、収容所に囚われた彼らのことを指している。

彼らは当局から、自由を奪われ、単純労働(鉄屑の選別、運搬等)を強いられ、バカバカしいイデオロギーを押し付けられながらも、内心の自由を守りつつ、収容所での単調な生活の中に笑いや喜びのタネを見出しながら、日々を逞しく、ときに狡猾に生き抜く。

グレーを基調とした映像がどんよりとした雰囲気を醸し出し、一見重たそうな感じのする作品だが、“どん底の生活にも喜びはある”、あるいは“体の自由は奪われても心の自由は奪えない”といった人間(弱者)肯定のメッセージが終始軽妙な笑いで語られて、作品のトーンは不思議なほど明るく、大らかで、力強い。

この映画で強く印象に残るのは、パヴェルとイトカの純愛。イトカのことが気になって仕方がないパヴェルは、会うたびに『欲しいものはない?』と尋ねるが、彼女は(物資が不足して困っているはずなのに)いつも首を横に振るばかり。しかし、パヴェルがたまりかねて『結婚しよう!』と言うと、彼女は微笑みながら、初めて頷く(その表情の愛らしいこと!)。イトカが欲しかったのは、パヴェルがくれるモノではなく、彼の愛だったのだ。このシーンは出色の出来だと思う。

もう一つ印象的なのは、囚人たちの人間らしさにほだされ、次第に彼らに感化されていく監督官の変化。焚き火で暖を取る彼らの囲みに恐る恐る加わって一緒に手をかざす監督官の姿は、人間本来の善性を感じさせて、心温まるものがある(……監視国家東ドイツで市民の監視に当たる監視者の良心を描いた『善き人のためのソナタ』を思い出す)。

本作は、常に社会的弱者の側に立つイジー・メンツェル監督の真骨頂を示す秀作。

……こういう自由を制限された状況を目の当たりにすると、つくづく自由とはありがたいものだと思う。日頃は全く意識しないが、自由が基本的人権とされている意味を改めて実感する。