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🔴本「小旋風の夢絃」感想*さすが小説現代長編新人賞受賞作!潔くて、読後に晴れやかな余韻が残る*小島環(講談社文庫)レビュー4.2点

 

小旋風の夢絃 (講談社文庫)

小旋風の夢絃 (講談社文庫)

【作者の熱い想いが籠もったエンタメ歴史小説】

紀元前の乱世を生きた人々の鼓動が聞こえてきそうな活き活きとした描写が印象的。ダイナミックでエネルギッシュだが、読後感は清潔で爽やか。

小説現代長編新人賞受賞作。

 

【あらすじ】

物語の舞台は、春秋後期の中国。墳墓の盗掘師として育てられた15歳の小旋風は、豪華な墳墓で木製の古い五弦琴を発見する。この琴が金になると踏んだ少旋風は、高貴な人物に高く売り付けて、その金を元手に成り上がろうと決意し、買い手探しの旅に出る。

ところが、少旋風は、その琴を狙う亡霊のような女、涓涓に跡を付け回され、とうとう二人連れで旅を続ける羽目になる。

やがて、その琴は各地で様々な噂を呼び、二人は一国を揺るがす大騒動に巻き込まれていく……。

【感想・レビュー】

中国古代を舞台にした小説は、国名や登場人物の名が紛らわしくて、何となく読みづらいイメージがあるが、本作の場合、序盤こそ少々厄介なものの、中盤以降はテンポの良さや躍動感が勝って、比較的スムーズに読み進めることができる。

本作の魅力は、ダイナミックなストーリー展開と個性的で活き活きとした登場人物だろうか。特に、知恵者の少旋風と、彼の琴を執拗に追いかける琴奏者涓涓のキャラがいい。

舌先三寸で王侯貴族と渡り合う野心家の少旋風が、涓涓との運命的な出逢いによって、次第に人間的な優しさを取り戻し、大切なものの存在に気付いていくさまが何とも清々しく、また、最初は亡霊のようだった涓涓が、次第に貴人のような気品と神秘的な美貌を兼ね備えた女性へと変貌していくさまもファンタジックな魅力に溢れている。

歴史の彼方を知恵と勇気でがむしゃらに駆け抜けた少旋風と彼を唯一無二の“知音”(意味は読んでみてのお楽しみ)としてとことん信じぬく涓涓……二人の熱い想いが悠久の時を超えてジワリと胸に染みる快作。

ラストは賛否が分かれるかもしれないが、これはこれで良し。潔くて、読後に晴れやかな余韻が残る。