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🔴本「盤上のアルファ」感想*ドラマとしても面白いので、将棋の素人でもOK*塩田武士(講談社文庫)レビュー3.9点

盤上のアルファ (講談社文庫)

盤上のアルファ (講談社文庫)

【勝負の真髄に触れる将棋小説】

人生の一発逆転に挑む男の奮闘を、ときにシリアスに、ときにコミカルに描いた将棋小説。特に、対局の描写はよく出来た観戦記のようなリアリティがあって見事。ドラマとしても面白いので、将棋の素人でもOK!

小説現代長編新人賞受賞作。

【あらすじ】

上司、同僚から嫌われ、花形部署の県警本部担当から文化部将棋担当へと左遷された新聞記者秋葉。

ある日、贔屓の飲み屋で以前大喧嘩したプロ棋士志望の真田が、突然秋葉のマンションに転がり込んでくる。追い出したい秋葉だが、憧れの飲み屋のママ静が、真田のプロ編入試験が終わるまで自分も同居する、と申し出たことから、三人の奇妙な同居生活が始まる。

プロ編入試験に向けてがむしゃらに研究に打ち込む真田、そんな真田を熱く静かに見守る秋葉と静。

そしていよいよ、真田の人生を賭けた戦いの幕が切って落とされる……。

【感想・レビュー】

この作品は、崖っぷちアラサー男子の無謀とも言える挑戦を描いたものだが、将棋をモチーフにしたことで、より“崖っぷち感”が増しているように思われる。それだけ将棋は峻烈で過酷なゲームと言え、人生がかかった一局というのも稀ではない。そんな一局に挑む対局者の心理がリアルに描かれているところにこの作品の良さがある。

作者は、棋界と縁が深い神戸新聞の元記者(神戸新聞にはかつて中平邦彦という名観戦記者がいた)。女流タイトル戦の厳かで凛とした空気や両対局者の意地と意地のぶつかり合い、プロ編入試験の虚虚実実の駆け引きやギリギリの攻防などの描写は臨場感たっぷりで、読み応え十分。

一方、物語は(真田の暗い生い立ちを除いて)関西のボケとツッコミを駆使したコミカルな展開で進行する。対局の迫真性と物語の虚構性とのバランスがよく取れた作品だと思う。

物語がやや陳腐というか、定番なところが弱点ではあるが、不遜で破天荒な真田のキャラは魅力的。いかにも“勝負師”という雰囲気があって、昭和の棋士のイメージ。スマートな(デジタル世代の)羽生世代とは対極の(体で覚えた将棋を指す)升田幸三や大山康晴、米長邦雄らを彷彿とさせて、妙に懐かしい。

しかし、将棋をモチーフにした小説は面白い。それは、対局という一種の極限状況下での“自分との戦い”がドラマチックだからだろう。楽観、慢心、不安、後悔、震えといった自分の弱い心と対峙し、それを克服しようと呻吟する姿は、勝者であっても敗者であっても、等しく美しい。