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🔵映画「レッド・バイオリン」感想*格調高いサスペンス映画*(1998)レビュー4.0点

レッド・バイオリン [DVD]

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【伝説のバイオリンが辿る数奇な運命】

若い頃、ヴィヴァルディのバイオリン協奏曲『調和の霊感』に魅了され、以来、クラシック(特に管弦楽)のファンになりました。……ファンといっても、まあ、作業や考え事の邪魔にならないから好き、という程度なのですが。ジャンルはバロック一辺倒で、楽器ではバイオリンが好きです。バイオリンの魅力は、音色が表情豊かなこと。人の感情を表現するのにこれほど適した楽器はないように思えます。

この作品は、17世紀のイタリアで制作された“レッド・バイオリン”と呼ばれる伝説のバイオリンが辿る数奇な運命を、壮大なスケールで描いたサスペンスドラマです。

過去と現在が交錯するストーリー、艶やなバイオリンの音色、全編を彩る耽美的な映像、それらが渾然一体となって、観る者に深い余韻をもたらします。“格調高いサスペンス映画”という点で、希少価値のある一作かと思います。

【あらすじ】

一応、ミステリー仕立ての作品でもあるので、あらすじの詳述は避けます。

ストーリーは概ね6つのエピソードで構成され、舞台はそれぞれ、①現代のカナダ・モントリオール、②17世紀のイタリア・クレモナ、③18世紀のオーストリア・ウィーン、④19世紀のイギリス・オックスフォード、⑤20世紀の中国・上海、⑥現代のカナダ・モントリオール、です。

①のオープニングでは、レッド・バイオリンと呼ばれる伝説のバイオリンがオークションにかけられる光景、②では、イタリアの名工ニコロ・ブソッティによるレッド・バイオリンの制作秘話、③では、レッド・バイオリンを自在に操る孤児院の神童の悲劇の生涯、④では、レッド・バイオリンに魅入られた英国人バイオリニストの悲恋の顛末、⑤では、文化大革命の影響下でレッド・バイオリンを手放さざるを得なかった中国人バイオリニストの絶望、⑥では、レッド・バイオリンの秘密に迫る黒人鑑定士の執念と策略、が描かれます。

レッド・バイオリンと呼ばれる由縁の“赤の塗料”の意味が分かったとき、ゾクッとするような衝撃に襲われます。

【感想・レビュー】

この作品、サスペンスフルな展開もさることながら、時空を超えた壮大な歴史ロマンの趣きもあって、観ているうちにだんだんと自分が歴史の生き証人にでもなったかのような気分になっていく、臨場感のあるドラマです。何度か過去と現在が交錯する場面もありますが、整然とした構成になっているので、特に混乱することはありません。

欲を言えば、③〜⑤のエピソードのインパクトが若干弱く感じられるところでしょうか。それぞれ興味深いエピソードなのですが、少し駆け足になっている感じがして、どれも少々物足りなさが残ります。ただ、⑥のまとめ方はさすがだと思います。サスペンスとしても歴史ロマンとしても、収まるところへピタッと収まったという感じで、これは納得のラストです。

また、映像と音楽も見事です。歴史や伝統を感じさせる古都の街並み、貴族の館の格調高い調度品や中世風の上品な衣装の数々、野原で音楽を奏でるジプシーの楽団、レッド・バイオリンの印象的な赤とその優美なライン……全ての光景に耽美的な美しさが宿って、観る者をひとときロマンの世界へと駆り立てます。音楽では、孤児院の孤児たちのバイオリン協奏曲の演奏がベストです。その旋律と音色の美しさに思わず溜息を洩らしてしまいます。 

一応、物語は⑥で完結しますが、レッド・バイオリンが存在し続ける限り、これからも新たなエピソードが追加されていくことでしょう。名工の魂が宿る伝説の名器、レッド・バイオリンがこれからどんな人たちの手に渡り、どんなドラマを刻んでいくのか、その遥かな旅を想像すると、様々な想念に捕われて感慨深いものがあります。