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🔴本「彼が通る不思議なコースを私も」/白石一文(集英社文庫)*生きることの意味を考えさせられ、未来への希望を繋ぐ良心的一冊*レビュー4.0点

彼が通る不思議なコースを私も (集英社文庫)

彼が通る不思議なコースを私も (集英社文庫)

第一感は、清潔感のある、とても感じがいい作品という印象。生と死、仕事と家庭、恋愛と友情など、身近でありふれた問題を、生真面目に描いているところに好感が持てる。

【ストーリー】

本作は、不思議な運命で巡り合った男女が、互いを尊重し、思いやりながら、それぞれの未来を切り拓いていく姿をミステリータッチで描いた物語。

【あらすじ】

家電メーカー勤務の霧子は、知人の自殺未遂現場で不思議なオーラをまとった小学校教諭林太郎と出逢う。その後、偶然、合コンの席で再会した二人は、互いに運命的なものを感じて結婚するが、それぞれの仕事の都合ですれ違いの日々が続く。そんな生活を改めたい霧子は、林太郎に子作りの相談を持ちかけるが、彼は霧子を思い止まらせようとして、それまで彼女に隠してきた自分の特殊な能力について語り出す。林太郎は両親から「神の子」と呼ばれていたのだった……。

【感想・レビュー】

本作のテーマは、「運命と意志」(……たぶん)。自らに備わった特殊な能力から、人の運命は神の手に委ねられていると考える林太郎と、運命も自らの意志の力で変える余地はあるはずと信じる霧子……(しかし、どちらも、限りある生を豊かなものにしたいという点で一致しているところが興味深い)。そして、林太郎は霧子に、子供(人)が生きていくために必要なものは何か、と問いかける。霧子は『夢や希望』と答えるが、林太郎は、そうではなく、『自分を愛すること』と言う。どうやらこの場面が、本作のハイライトであり、テーマであるように思われる。自分を愛することができてはじめて子供(人)は生きていけるし、幸せにもなれる……それはそのとおりかもしれない。では、自分を愛するためにはどうしたらいいのだろう。子供だったらどうか。大人だったらどうなのか……。まさにその点が、(生きる意味を懸命に模索する)作者が読者に投げかけた問いであり、本作のキモのような気がするのだが……。

林太郎と霧子の真摯で誠実な生き方を通して、生きることの意味を考えさせられ、未来への希望を繋ぐ良心的一冊。