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🔴本「不安な童話」/恩田陸(祥伝社文庫)*著者の豊かな才能を見せつけた傑作*レビュー3.7点

不安な童話 (ノン・ポシェット)

不安な童話 (ノン・ポシェット) 

 

本作は、不思議な透視能力を持つ女性(古橋万由子)が、25年前に変死した女性画家(高槻倫子)の殺人事件の謎に巻き込まれていく様を描いたミステリー。

【あらすじ】

……大学教授秘書の万由子は、かつて天才画家と謳われた高槻倫子の遺作展を訪れる。しかし、展示された絵を見た万由子は強烈な既視感に襲われ、「鋏が……」と叫んでその場で失神してしまう。実は、倫子は25年前、何者かに鋏で首を刺されて殺されたのだ。そして、倫子の遺児である高槻秒から「あなたは母の生まれ変わりです」と告げられる……。

【感想・レビュー】

まず物語の冒頭で読者の関心をグッと惹き寄せ、その後はたたみかけるようなスリリングな展開で最後まで読者を飽きさせない……やはり恩田陸のストーリーテイリングのうまさは、流石の感がある。そんな実力派の彼女が直木賞を受賞したのはつい先日のこと。意外や意外、いくら何でも遅すぎだろうという気がするのだが。

もっとも、この作家、(恩田ファンには失礼だが)作品の出来、不出来の振幅がやや激しいような印象は受ける。恐ろしくレベルの高い作品もあれば、かなり物足りない作品もあるといった具合に(多作の作家の宿命だろうか)。そういったシビアな目で本作を眺めてみると、破綻なくまとまってはいるものの、少し毒気が足りない気がする。彼女のレベルにしては、やや平凡か。

 

本作中の一場面に、『海が見える瞬間というのは、不思議なものだ。必ずその予兆がある。何かが開ける気配がある』という一文がある。

海が見えるときの一瞬のときめきが鮮やかに表現されていて、つくづくうまいなあと感心してしまう。恩田作品の魅力は、こうした豊かな感性が生み出す力感にある。そして、その魅力が最も凝縮した作品が「夜のピクニック」だろう。

ちょっとワケありの家庭で育った多感な少女のささやかな決意を描いたこの物語は、恩田陸の豊かな才能を見せつけた傑作だと思う(いいトシをして映画のDVDまで買ってしまった)