🔴本「天使の骨」/中山可穂(集英社文庫)*作者の未完成の魅力を湛えたみずみずしい佳作*レビュー3.7点
中山可穂は、「弱法師」を読んで以来、気になっている作家。同作品集に収録されている中編小説「卒塔婆小町」は、本当によく出来た小説だった。
本作は、作者のデビュー二作目の作品で、デビュー作「猫背の王子」の続編となるもの。
【あらすじ】
芝居に人生を賭けた若き劇作家の王子ミチルは、命にも等しい劇団を失い、絶望の果てにぼろぼろの羽根をまとった天使の幻覚を見るようになる。ミチルは、そんな疲弊した日々から逃げ出すように、あてのない旅に出る。イスタンブールからヨーロッパへと続く旅の途中、彼女は様々な人と出会い、様々な感化を受け、少しずつ天使の幻影を葬っていく……。
【感想・レビュー】
東京で活躍する演劇界の寵児で同性愛者の若い女性(ミチル)を、垢抜けない只の田舎ジジイ(自分)が語るのは、余りにも距離感がありすぎて、多少気恥ずかしくもあるのだが……まあ、作品の感想位は言えるだろう。
この作品の特徴は、痛みとエロスとナルシズム。ギリギリの切なすぎる想いを描いてとにかく痛く、躰の奥底から立ち昇る妖しい性の衝動を描いて何ともエロティックな物語なのだ。ミチルの際限のない自己否定と甘ったるい自己陶酔には多少辟易させられるが、そこに若さゆえのひたむきさや危うさも強く滲んで、嗤えない切実さがある。そういう意味では、この作品は恋愛小説というより青春小説といった方が近いのかもしれない。
それにしても、(たとえフィクションとはいえ)自分の心をなますのように切り刻んで人前に晒すことをためらわない作家魂には、つくづく恐れ入る。表現的には、気負いが先に立って荒削りなところもあるのだが、それがかえって若さを際立たせているような気もする。
作者の未完成の魅力を湛えたみずみずしい佳作。