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🔴本「海の子」/ドリアン助川(ポプラ文庫)のラストは予想外だった。レビュー4.1点

([と]1-4)海の子 (ポプラ文庫)

海の子 (ポプラ文庫)

ドリアン助川は、好みの作家。イチオシ作品は、多摩川沿いの住人の日々の哀歓を綴った「多摩川物語」。切々とした余韻が心に沁みる素晴らしい作品だった。

【ストーリー】

本作は、日々の生活に疲れ切った人々が「船釣り」をきっかけに明日へのかすかな希望を見出していく様を描いた中編小説集。

収録された「花鯛」「オニカサゴ」「寒平目」「甘鯛」の4篇のうち、最もクオリティが高いのが、売れない中年俳優とひどくおしゃべりな変わった男の子との奇妙な友情を描いた「オニカサゴ」(これは「多摩川物語」「あん」にもひけをとらない傑作。……他の3篇も悪くはないのだが)。

【感想・レビュー】

【オニカサゴ】

売れない俳優の文彦は、事務所の社長で大学以来の腐れ縁の俊之に頼まれて、俊之の息子良太を釣りに連れていく。

船上、文彦は、おしゃべりが止まらない良太を疎ましく思いながらも良太の面立ちの中にかつての恋人玲子(良太の母)の面影を見て、憎めない。そして良太も文彦を父親のように慕っている。

やがて二人はそれぞれ念願のオニカサゴを釣り上げる。しかし文彦がオニカサゴの毒針に刺され、相次いで良太も刺されてしまう。

その夜、絶品のオニカサゴ料理を食べながら、良太は亡き母玲子との思い出をポツポツと語りだす……。

 

なぜ良太は文彦を慕うのか。さんざん注意されていながら、なぜ良太は毒針に近づいたのか。その謎が解けるラストに思わず落涙。これは切なすぎる。

死にゆく者の切ない願いと不器用な人間同士の拙い愛情表現を通して、人と人の絆の貴さを描いた、ドリアン助川の面目躍如の一作。

やっぱりドリアン助川は、読者の期待を裏切らない。