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🔵映画「アメイジング・グレイス」*民主主義の限界やヒューマニズムの本質を考えさせられる作品*(2006イギリス)レビュー4.2点

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18世紀末から19世紀前半のイギリスを舞台に、奴隷解放のために闘った実在の政治家ウィリアムズ・ウィルバーフォースの波乱の半生を描いた史実に基づくドラマ。

【あらすじ】

聖職者として神の道を歩むか、政治家として世を変えるかの選択に悩むウィルバーを後押ししたのは、彼の盟友ウィリアム・ピット(後のイギリス首相)と師のジョン・ニュートン(名曲「アメイジング・グレイス」の作詞者)だった。若くして政界入りを果たしたウィルバーは、志を同じくする数人の仲間たちとともに、長い間彼の心を苦しめていた奴隷貿易の廃止を議会で訴え続ける。しかし、奴隷貿易によって富や利権を得ていた反対勢力の強い抵抗に遭い、彼らは何度も苦渋を飲まされる。それはまさに茨の道だった……。

【感想・レビュー】

いかにもイギリス映画らしい硬質で骨太のドラマで、「麦の穂をゆらす風」や「ブラス!」の系譜に連なる力強い作品。こういう観客に媚びない生一本のドラマは本当に観応えがある。商業主義のハリウッドではたぶん作れない映画だろう。そこにあえて挑戦したイギリスの映画人の良心と心意気を買いたい。

人権より経済が優先される世の中は、昔も今も変わらない。人の欲には際限がないから、貧乏人も金持ちも今以上の豊かさを追求するのは当然の成り行きで、そのために大半の人は自分に直接関係のない犠牲は見て見ぬふりをしてやりすごす(イギリスの紳士淑女が黒人奴隷の血で造られた砂糖で紅茶を飲むシーンは象徴的)。そんな人間の総和が国家であるとしたら、議会や民主主義が正常に機能するはずはなく、この世から飢餓、貧困、戦争などの非道がなくなることはないだろう。

しかし、世の中には、他者の犠牲を看過できない人もいる。貧しい者や弱い者に心を寄せ、手を差し伸べる人もいる。そして、そういう善き人に共鳴する人もまた大勢いる。だから人間は素晴らしい。ウィルバーの成功はその証明であり、歴史上の偉大な教訓と言えるだろう。

中には、裕福なウィルバーが奴隷解放を唱えることに偽善を感じる人もいるかもしれないが、彼のやむにやまれぬ思いやいたたまれないほどの苦悩を察することのできる人なら、そういう見方はできないだろうし、少なくとも見て見ぬふりをしてやりすごす人より遥かに尊いことは明らかであると思う。

本作は、単なる感動作というのではなく、民主主義の限界やヒューマニズムの本質といった深いところまで考えさせられる一作。

ちなみに「アメイジング・グレイス」の歌い手では、本場のケルティック・ウーマンが一番好みです。