お気楽CINEMA&BOOK天国♪

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金はないけど暇はあるお気楽年金生活者による映画と本の紹介ブログ

🔵映画「善き人のためのソナタ」は、ドイツ人の気質が生み出した名作(2006ドイツ)レビュー4.3点

 

善き人のためのソナタ [Blu-ray]

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時代は1984年、舞台は東西冷戦下の東ベルリン。監視国家体制を支えるシュタージュ(国家保安局)の幹部ヴィースラー大尉は、反体制の疑いがある劇作家とその恋人の私生活を盗聴、盗撮で日夜監視する中、次第に彼らの自由な思想に感化され、組織の活動に疑問を持つようになる…。 

【あらすじ】

本作は、監視体制下での盗聴、盗撮、検閲などの真実を描いて権力の非人間性を厳しく告発しつつ、そうした権力に抗う人間のささやかな抵抗を描いて人間の尊厳を訴えた重厚なヒューマンドラマ。

【感想・レビュー】

物語はただ静かに進行する。静かなだけに序盤のヴィースラー大尉の無表情は際立って不気味だ(こんな男から尋問されたら、やってないことまでゲロしてしまいそうな気がする)。しかし中盤から彼の表情に変化が現れる。人間性を回復していく過程のウルリッヒ・ミューエの演技は本当に凄い。そして、終盤の穏やかで救いに満ちた結末。

深刻で重いテーマでありながら、それほど暗い気分に陥らないのは、役者の抑制の効いた演技と淡々とした進行、そして爽やかさすら感じられるエンディングの賜物だろう。終始静謐と抑制に徹していて、それ故観る者の心に深い余韻を残す名作だと思う。本作を、実直で無骨で厳格なドイツ人にしか作れない映画と言ったら言い過ぎだろうか。かつての監視社会の中で多くの者が犯したであろう過ち(密告、裏切り、贈収賄等々)から目を逸らすことなく、自由の価値と人間の尊厳を守るため(言わば自らの恥を晒す形で)この映画を製作したスタッフの覚悟は賞賛に値する。

ちなみに昨年は「点子ちゃんとアントン」「マーサの幸せレシピ」の2本のドイツ映画を観た。児童映画もラブコメも、なんとなく硬い雰囲気が抜け切らず、少々野暮ったいところがいかにもドイツ映画らしくて笑ったが、どちらの映画も出来は素晴らしかった。ドイツ映画も侮れない。