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🔴本「卵をめぐる祖父の戦争」/デイヴィッド・ベニオフ(ハヤカワ文庫)*ラストの1ページがとにかく見所!*レビュー4.4点

卵をめぐる祖父の戦争 (ハヤカワ文庫NV)

卵をめぐる祖父の戦争 (ハヤカワ文庫NV)

小説「25時」や映画「トロイ」を手がけたアメリカの作家、脚本家のデイヴィッド・ベニオフの3作目の小説。意味深なタイトルに惹かれて購入したが、内容は想像以上の出来。

【あらすじ】

物語の舞台は、1942年のドイツ軍包囲下のレニングラード。食糧難で飢えに苦しむ17歳のユダヤ系ロシア人レフは、死亡したドイツ兵から物資を盗んだ罪で軍の秘密警察に連行され、軍の大佐から、脱走兵コーリャと二人で、娘の結婚式のための卵1ダースを1週間以内に調達してくるよう命じられる。この飢餓の最中にどこに卵があるのか?……レフとコーリャの卵探しの旅は、困難を極める。そして、道中で出逢ったパルチザンの女狙撃手ヴィラも加わって、彼らの旅は更に過酷で危険なものとなっていく……。

【感想・レビュー】

本作は、死と隣合わせの戦禍の中を逞しく生き抜く若者たちの姿を通して、戦争の残酷さ、人間の愚かさや素晴らしさを描いた反戦小説。

飢餓、極寒、戦争という極限状況下で繰り広げられる残虐行為や死に直面した者の恐怖など「死」の描写が圧倒的にリアルで、目を伏せたくなる場面も多いが、物語の語り口が終始ユーモラスで、レフとコーリャの友情と冒険、レフのヴィラへの淡い恋心など若者たちのみずみずしい感情の横溢が「生」の象徴として活写されているので、不思議と後味は良い。

臆病で劣等感の塊のようなレフ、饒舌で才気溢れるコーリャ、シニカルでミステリアスなヴィラ……3人の人物造形とその組み合わせも絶妙で、とりわけ金髪碧眼の美青年コーリャの存在感は大きい。コーリャがレフに指南する女の口説き方は笑えるし、彼らの下ネタ満載の会話は、(決して品の良いものではないが)品がないだけに極限状況下の若者のヤケクソ感が滲んでいて、かえってリアリティが感じられる。そして、白眉はラストの1ページ。本作のメッセージは、軍の大佐のおそろしく莫迦げた命令と、その最後の1ページに収斂される。

人間ってヤツはどうしようもなく愚かな存在だけれど、まだまだ捨てたもんじゃない、そう思わせてくれる救いの一冊。