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🔵映画「冬冬の夏休み」~心の琴線に触れる至福の映画~(1984台湾)4.6点

冬冬の夏休み -デジタルリマスター版- [Blu-ray]

冬冬の夏休み -デジタルリマスター版- [Blu-ray]

長い間DVD化を心待ちにしていた映画(以前書店で紀伊國屋レーベルのDVDを見かけたのだが、購入をためらっているうちに、いつの間にか廃盤になっていた)。去年Blu-rayが発売されたので、即購入。「恋恋風塵」も良かったが、本作はそれ以上かも。待った甲斐があった。

【あらすじ】

母の病気のためにひと夏を田舎の祖父母の元で過ごすことになったトントンと妹のティンティン。都会育ちの兄妹は、初めての田舎暮らしに不安を隠せないが、祖父母たちや近所の悪童たちに温かく迎え入れられて、すぐに村の生活に馴染んでいく。兄妹は、家族や仲間たちとの交流や村の中で起こる様々な出来事を通して、少しずつ新しい世界に触れていく。やがて夏の終わりとともに、宝物のような日々も終わりを迎え、二人は父母の待つ都会へと帰っていく……。

【感想・レビュー】

名匠ホウ・シャオシェンが、失われた日々への限りない郷愁を込めて描いた少年の日のスケッチ。この監督の感性は、並じゃない(……つい先日「レッド・バルーン」を凡作とこき下ろしたばかりだけど……あれはフランス製作、たぶん土俵が違いすぎるのだろう)。村で起こった強盗事件、村を徘徊する頭の弱い女ハンズの不幸、少し頼りない叔父さんのデキちゃった結婚、厳格な祖父とのぎこちない交流などの日常のささいなエピソードを、透徹した目で淡々と描きながら、新しい世界に触れていく少年少女の伸びやかな心情を余すことなく表現している。監督の期待に応えて、生き生きとした演技を披露してくれた子どもたちも立派(特にティンティンの演技は秀逸)。彼らの姿を見て、誰もが幼い頃の記憶を喚起され、「あゝ、トントンは俺だ!ティンティンは私だ!」と思うことだろう。

それにしても、台湾の風景は全てが懐かしい。壁掛けの古い柱時計。道端に止まったスクーター。幾筋かの煙が立ち昇る田園の風景。昼の蝉の声と夜の蛙の声……。全てが「昭和」の原風景を見ているようで、やるせないほどの甘美な郷愁に誘われる。

心の琴線に触れる至福の映画。鑑賞後はしばらく動けない。